2015.12.25 仕事術
第10回 視察のための質問ポイント(6)~視察事例における費用を把握する~
オープン・クエスチョンとクローズド・クエスチョン
今回まで8つの質問を例示してきた。これらの質問はオープン・クエスチョンである。質問は大別してオープン・クエスチョンとクローズド・クエスチョンの2種類がある。これらについて簡単に説明しておく。
相手の考え方や意向、経験などを把握する質問形式はオープン・クエスチョンとなる。例えば、相手に対して「どう思うか?」などのように、制約を設けず自由に答えてもらう質問形式である。オープン・クエスチョンは、相手からより多くの情報や知見などを引き出したい場面で有効である。
一方でクローズド・クエスチョンは、相手が「YesかNo」、又は「AかBどちらがよいか」などの択一で答えてもらうような回答範囲を限定した質問形式になる。例えば、「国の地方創生の取組に対して、賛成と反対のどちらの立場をとりますか」と尋ねる場合はクローズド・クエスチョンである。この質問を聞いた場合は、賛成か反対の意向を把握した後、その理由も確認しておく必要はある。
クローズド・クエスチョンは、相手の考えや事実を明確にしたい場面で有効とされる。話題を広げたいときや、相手の思いなど(視察事例に対する熱い思いなど)を引き出すときには、オープン・クエスチョンが効果的である。クローズド・クエスチョンは「YesかNo」であるため、どうしても話題が広がらない傾向がある。また、筆者の経験になるが、自治体職員の多くは、明確に「Yes」や「No」を言わない傾向がある。そこで視察の場合は事前にオープン・クエスチョンで質問内容を送り、視察当日は、視察の中で適宜、クローズド・クエスチョンを入れて、視察にメリハリをつけるとよいだろう。
ポスト地方創生
今年度、筆者が特に気にしていることが「地方創生」である。この地方創生に忙殺される日々でもあった。国の「まち・ひと・しごと創生」(通称「地方創生」)は、地方自治体に地方版総合戦略の策定を求めている。地方版総合戦略は、自治体が独自に設定する2060年の目標人口を達成するための具体的な事業を書き込んだ行政計画である。
まち・ひと・しごと創生本部事務局の発表によると、2015年10月30日現在において、都道府県では38団体、市区町村では728団体が策定済みとなっている。今後も多くの自治体が策定していく。なお、時事通信社の調査によると、2040年までに「消滅可能性都市」と指摘された896市区町村のうち、42.7%に当たる383団体が10月末までに地方版総合戦略を策定済みであることが分かっている。
全国的に進められた「地方創生」の4文字の定義は曖昧である。地方創生の解釈は様々ある。その中で筆者は次のように考えている。一般的に「地方」とは「地方自治体」(地方公共団体)を意味するだろう。そして創生の意味を辞書で調べると「作り出すこと。初めて生み出すこと。初めて作ること」とある。
そのため地方創生とは、「地方自治体が、従前と違う初めてのことを実施していく。あるいは、他自治体と違う初めてのことに取り組んでいく」という意味があるだろう。すなわち政策にイノベーション(新機軸)を生み出すと捉えることができる。このことを認識している当事者は少ないかもしれない。実情は地方創生ではなく、過去と同じことを実施する「地方踏襲」や、他自治体と類似の事業を展開する「地方模倣」が多かったように思われる。もちろん、そうなってしまった理由のひとつに、国の制度設計の問題もある。
その地方創生が「一億総活躍」に取って代わられようとしている。地方創生が本格的に始まる前にポスト地方創生が見えつつある。今回の経験から、自治体は何を学んだのだろうか。それぞれの自治体(特に議会)は総括する必要があると思う。
●視察のポイント
(1)注目している事例を把握することで、視察自治体の思想(考え方)も把握する。
(2)行政資源も確認する。特に費用はしっかり把握する。
(3)オープン・クエスチョンとクローズド・クエスチョンを使い分ける。
●筆者が勧める視察先
人口減少による最大の弊害は歳入の逓減である。もし人口が減少しても歳入が維持できれば、人口減少は大きな脅威とならないかもしれない。歳入は大きく税収と税外収入に分けられる。人口減少により税収も縮小していく。そこで「税外収入を拡大していけばよい」という発想もあるだろう(税収の拡大を求めるのが王道である。税収の増加を考えずに税外収入の獲得に入るのは本末転倒である)。
税外収入とは「税金によらない収入」のことであり、自治体が保有する体育館や競技場等の公共施設の「使用料」や証明書発行の「手数料」は、多くの自治体が取り組む税外収入である。ふるさと納税や命名権も税外収入である。今回は特徴的な税外収入の事例を紹介したい。
・鎌倉市のクラウドファンディング
クラウドファンディング(Crowdfunding)とは、「個人や団体の企画立案者が、通常インターネットを通じて、不特定多数の支援者から、事業のための財源や活動の資金を調達する手法」である。
2013年11月、日本で初めて鎌倉市はクラウドファンディングを活用して観光施設整備事業費の資金調達を実施している。「鎌倉が好き」、「鎌倉を応援したい」と思う全国の鎌倉ファンから寄附を募り、新しく10か所に観光ルート板を新設した。
・町田市の「特許使用料」
町田市には停電時でも点灯し続ける街路灯がある。それが「消えないまちだ君」である。消えないまちだ君は、町田市と市内の中小企業者が共同で製品開発を行い開発した。2013年2月に官と民の連名で出願し、2013年10月に特許を取得している(特許第5378619号)。この特許使用料(ライセンス料)も税外収入である。
・春日部市の「売電事業」
春日部市では、地球温暖化防止対策として、再生可能エネルギーの普及に取り組んでいる。2015年8月、市内に自然エネルギーを活用した太陽光発電所が完成した。同発電所から売電することにより、年間の売電収入として260万円を見込んでいる。春日部市に限らず、自治体は売電により歳入を得ようとしつつある。経済産業省が「各地方公共団体の売電契約の実態調査結果」をまとめているため、参照してほしい。
●推薦する図書
・本間義人=檜槇貢=加藤光一=木下聖=牧瀬稔共著『地域再生のヒント』日本経済評論社(2010年)
書籍名から理解できるように、地域を再生する視点について言及している本である。具体的な事例を示しながら、その様々な事例から読者なりに何かしら得てほしいという意味で「ヒント」としている。つまり本書は、あくまでも「ヒントの提供」である。
当たり前であるが、地域の事情は地域ごとに異なる。ある地域の成功事例が、そのまま別の地域に当てはまることは少ない。ある地域の成功事例を活用するときは、自分たちの地域の事情や背景、地域性に合わせて移転していくことが求められる。その意味で、本書からは様々なヒントを得ることができる。