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2015.11.25 仕事術

第9回 視察のための質問ポイント(5)~成功事例における“失敗”を把握する~

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一般財団法人地域開発研究所 牧瀬稔

充実した視察の秋を迎えるために

 食欲の秋、読書の秋、スポーツの秋、そして芸術の秋など、様々な「○○の秋」がある。読者にとっての「○○の秋」は何であろうか。勉強の秋? 行楽の秋? 紅葉の秋? 恋愛の秋? ○○の秋の中には、当然「視察の秋」もある。実際、この時期は視察が多くなるようだ(ちなみに筆者は「仕事の秋」になりそうである)。
 先日、待機児童対策で成果を挙げている自治体の担当者と話す機会があった。すると「ほとんど毎日、最近は視察を受け入れていますよ」と言っていた。そして、その視察の多くが議員によるものであるそうだ。
 その担当者から、視察の受入れに伴う様々なボヤキを聞いた(一方で「視察先に選ばれている!」という自信に満ちたうれしい悲鳴もあった)。筆者が印象に残ったボヤキは2つある。第1に「我が市の取組の関連資料を事前に読まないで視察に来ることが、意外に多いのですよ」という発言である。そのため視察事業の概要説明だけで多くの時間を割いてしまうそうだ。その結果、事業の核心にまで話がいかないことも多いと言っていた(核心を伝えられないことを残念がっていた)。本連載ですでに言及したと思われるが、現地を視察する前に、視察対象に関連する資料を読んでおくことは必須である。これは視察のマナーである。
 第2のボヤキは「自分たちの自治体の現状を把握しないで視察に来る議員も、少なくないのですよ」である。視察に対応した担当者が「そちらの自治体では、すでに×××に取り組んでいますよね。この事例は我が市と類似の活動になります」と紹介すると、「そうなんですか!」と驚いたり、感嘆したりする議員が一定数はいるという。視察に行く前に、まずは自分の自治体の担当課に、視察事例の有無について確認する必要があるだろう。「視察に来た事例、実は貴市でも実施していますよ」と視察先に指摘されるのは「恥ずかしいこと」と認識してほしい。
 上記担当者のボヤキからも明らかであるが、改めて強調したい点は、①視察に行く前に、視察事例に関係する資料はしっかり目を通しておくべきであり、また、②自分たちの自治体の現状を把握してから視察に行くことも大切ということである。

視察時に確認したい10の質問

 さて前置きが長くなったが、今回も視察を実施するときに、質問した方がよいと思われる設問を2問ほど例示する。いずれも筆者が視察した際に尋ねている質問である。

【問5】その政策により、どのような問題が生じましたか?  この質問の視点は、連載第5回で簡単に言及しているが、再度、詳しく記したい。政策をつくって実施していけば、その政策により全ての住民が利益を受けるということはない(全ての住民の福祉が増進するわけではない)。何かしら政策を形成し実行していくと、その政策により「恩恵を受ける人」(外部経済)がいれば、「被害を受ける人」(外部不経済)も出てくるという事実が必ずある。これは当たり前のことである。しかし、この現実を理解していない(あるいは外部不経済には目をつむる)場合が少なくない。
 例えば、自治体が観光振興に力を入れたとする。その結果、観光客が増加し観光業者をはじめ観光に携わる者にとっては利益が生じる。これは「正の効果」(外部経済)である。一方で交通渋滞が起きることにより、地元住民の生活に不便が生じることがある。この場合は「負の効果」(外部不経済)となる。また観光客が残した大量のごみは、地元住民の生活環境を下げることにつながる可能性もある。これも負の効果となる。
 何事もそうであるが、活動を起こすと正の効果と負の効果が生じる。そのような現実の中で、行政判断は、正の効果と負の効果を天秤(てんびん)にかけ、正の効果の方が負の効果より大きいと理解するから、政策実施を選択することになる(「正の効果>負の効果」であり、住民全体の福祉が増進するため政策を実施することになる)。
 視察として選んだ成功事例が負の効果を全く出さなかったということはない(視察先が「負の効果は全くありません」と言った場合は、負の効果に気がついていないのだろう)。そこで「その成功事例からは、どのような問題が生じましたか?」と尋ねて、負の効果も把握することが望ましい。そして負の効果が明らかになったら、続いて「その外部不経済にどのように対処しましたか?」と聞くとよいだろう。
 政策づくりでは、その政策による負の効果の存在も想定し、その負の効果を可能な限り小さくするための手法(政策)も形成しておくことが理想である。視察事例の光だけに注目するのではなく、影もしっかりと把握する。そしてその影の対処法も考えてこそ、政策は住民の福祉の増進を実現していくことにつながっていく。

【問6】議会からどのような質問がありましたか?  本連載の読者は議員が多いと思われる。議員が視察を実施する際に念頭に置いているものには、執行部への政策提案や執行部が実施している政策への質問があるのではないだろうか。そこで「議会からどのような質問がありましたか?」と聞くことにより、①執行部に対してどのような質問をするべきか、②どのように質問をすれば執行部が動いてくれるのか、という観点が明確になる。その意味で、視察先の自治体が議会で受けた質問も把握しておくとよいだろう。
 一方で、執行部が視察に行く場合は「議会からどのような質問がありましたか?」と聞くことで、「議員の質問に対して、どのように回答して議員に納得してもらったか」などを把握することができる。
 ところで話はやや変わるが、議員の議会における質問を概観すると、執行部に対して「あれをやったらどうか」や「これをすべきではないか」と要望的な提案が多すぎるように感じる。これらの提案の背景のひとつに、視察から得られた知見もあるのだろう。議員の役割のひとつは政策(施策や事業を含む)の提案であるため、積極的に「あれをやったらどうか」や「これをすべきではないか」という質問をすることは悪いことではないと思う。
 しかし昨今は、自治体の歳入が減っていく事実がある。そのため議員が提案する政策を執行部が予算化して実施することは難しい場合も生じてくる。執行部からは「議員は好き勝手に提案していいよ。俺たちはその提案された事業の費用の捻出に苦労しなくてはいけない……」という恨み節が聞こえてきそうである。
 そこで議員が政策提案するときは、次の3つの観点を持って質問した方がよいと思っている。それは、①必要のない政策(施策や事業)の廃止を求める。廃止した政策の財源で、議員が提案する政策を実施してもらう。②ゼロ予算の政策を提案する。費用のかからない政策を提案する(ただし職員の人件費は除く)。③自治体がお金を稼ぐ手段を提案する。この「お金を稼ぐ手段」のひとつが税外収入である。税外収入とは「税金によらない収入」である。具体的には、ふるさと納税制度や命名権(ネーミングライツ)などが該当する。
 また、お金を稼ぐ手段に類似した内容として、国等の補助金や助成金の提示もあるだろう。つまり「国の……という補助金を活用して、提案する政策を実施したらどうか」と執行部に伝えていくのである。政策は予算とセットで提案した方が採用率(実行率)は高まってくる。この点も既存の議会質問から把握しておくとよいだろう。

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