2015.10.26 仕事術
第8回 社会データを比較する際に常に意識すべき高齢化要因
日本の医療費は果たして高いのか?
日本の国民医療費は2012年度に39兆2千億円、国民所得比で11.17%と膨大な額に達しており、高齢化がさらに進展すると、これが国民生活や国家財政を圧迫する大きな要因となることが懸念されている。しかし、日本の医療費はそれほど高いのであろうか。
日本の医療費は、OECDが各国の医療費の概念を統一したデータで、各国のデータがそろう2013年の対GDP比を見ると10.2%となっており、OECD34か国の中で8位と高い部類に属する。しかし、これは高齢化の進展度合いを無視した比較である。そこで図2に、高齢化比率との相関で1970年以降の医療費水準の推移を主要国と比較した図を掲げた。
これを見ると、日本のカーブはそう高くない水準で左右に長くなっており、日本の高齢化のスピードの速さと対GDP比の比較的良好なパフォーマンスを示しているといえる。対 GDP比は、最近まで比較した8か国中、高齢化比率が最も低い韓国を除いて最もその値が低かったが、直近では、さすがに高齢化の勢いに抗しきれず、英国、スウェーデンを上回った。しかし、日本は今や最も高齢化の進んだ国となっているので、なおさら、対GDP比の相対的な低さが目立つ形となっている。
この図で注目すべきは、高齢化の進展度合いに合わせて医療費水準がどう上昇しているかを、線の傾きで各国比較した結果である。
線の傾きで特異なのは、極めて高い上昇が目立っている米国である。社会保険の範囲が小さく、民間保険と医療機関相互の競争など市場原理をメインとしている点で世界の中でも特異なシステムをとっている米国では、高度医療の発達や医療機器の進歩では世界一となっているが、医療費については高騰に悩まされ、マネジドケアなど数々の医療システム改革にもかかわらず、貧困層への医療供給は制約されて平均寿命も先進国の中で低い状況にある反面で、国民の所得の多くが医療費に注ぎ込まれているという特徴が表れている。成否はともかく、米国で医療保険を全国民に普及させようというオバマ改革が進みつつあるのは、こうした背景によるのである。
かたや英国では、国が医療を供給するという基本線がとられてきており、1980年代までは1人当たりの医療費水準も他国と比べて低かったが、それ以降、むしろ医療費の上昇に悩まされている。高齢化は進展していないのに医療費だけは上昇しており、米国と同様垂直に上昇していたのが目立つ。1980年代のサッチャー改革で医療が切り詰められた結果、国民の医療へのアクセスが異常に制約を受け、むしろ、それへの反動で医療の供給量を増加させているためと考えられる。
米英の2国を除くと、日本を含め高齢化と医療費の相関では、レベルの違いはあるが、相関線の傾きにおいては、傾きの程度あるいは毎年の安定的な上昇など、ほとんど同等といえる傾向を示している点が目立っている。ただ、一時期、米英だけでなくその他の欧米諸国でも垂直シフトが目立った時期があり、日本の良好なパフォーマンスがそれだけ目立つ状況となった。
韓国は、高齢化も医療費水準も日本の1970年代の水準にあるが、今後、高齢化の進展が大きく見込まれることから、医療費のこれからの動きについて注目される。韓国の医療費対GDP比7.1%(2014年)はもちろん現在の日本より低いが、日本が現在の韓国の高齢化率だった頃よりは高く、今後、右上がりの状況がどうなるかは予断を許さない。
このように高齢化比率との相関で医療費を見ることによって、より突っ込んだ医療費の分析が可能となるのである。