2015.10.26 仕事術
第8回 社会データを比較する際に常に意識すべき高齢化要因
アルファ社会科学株式会社主席研究員 本川裕
がん死亡率は本当に増えている?
日本の近年の経済現象、社会現象のデータ推移を追うときには、必ずといってもよいほど、高齢化の要因が働いていないかどうか、また高齢化の要因がどの程度影響しているかに気をつける必要がある。日本の人口構造は、戦後すぐに生まれた団塊の世代が多いことに加えて、その後、1970年代以降、極めて急速に少子化が進んだという特徴を持っており、そのため、高齢化(65歳以上人口の比率が上昇するという基準で見ることが多い)の程度とスピードが世界一となっている。このため時系列推移の分析にせよ、国際比較にせよ、高齢化が影響する全てのデータで高齢化要因をどう扱うのかが不可欠の注意事項となっているのである。
日本人の最大の死因である「がん」による死亡者数、死亡率は年々増加の一途をたどっており、がん撲滅は国民的課題となっている。
しかし、これは、そもそもがんの死亡率が高い高齢者の人口割合が増えているためであり、高齢化による影響が大きい。1年間における人口10万人当たりの死亡率を「粗死亡率」という。これに対して、もし日本人の年齢構成が不変であったら死亡率はどういう値であるかを計算した指標を「年齢調整死亡率」と呼ぶ。後者を5年おきにたどると、がんの死亡率は、男性では1995年をピークに低下、女性ではなんと1960年以降、低下し続けていることが分かる。すなわち同じ年齢であれば、がんで死ぬ確率は低下してきているのである。
男女の比較でもこの考え方は有効である。図1に付記した数値から、粗死亡率では、男性のがん死亡率は女性の1.5倍である。それでは、男性は女性よりがんで死ぬ確率が約5割高いと述べるのは正しいだろうか。平均寿命が長い分、女性の方が高齢化が進んでいる。さすれば、同じ年齢ではもっと男性のがん死亡率は高いのではないか。図1の年齢調整死亡率でがん死亡率を計算すると、男性は女性の1.9倍となる。すなわち、年齢を考慮すれば、なんと男性は女性の約2倍もがんで死にやすいことになる。男女の心身の違いばかりでなく、喫煙率や肥満など生活状況の違いが加わって、こうした男女の大きな差が生じているといわざるを得ない。
高齢化要因を取り除いてデータを分析する方法としては、このような年齢調整後の値を計算する方法のほかに、年齢別のデータを見るという方法、また高齢化比率との相関図を描く方法などがある。
年齢別のデータを見る方法とは、高齢者と高齢者以外とを別々にしてデータの推移やデータの地域別比較を行うというものである。例えば、都道府県別の医療費を比較したい場合、全人口に関する1人当たり医療費を比較したのでは、高齢化の進んだ県ほど医療費が多くかかっていることになり、医療費が多くかかりすぎているかどうかについて正しい判断ができない。そこで、高齢者だけを対象にした1人当たり医療費を算出して都道府県間の比較を行うというものである。実際、こうした比較はよく行われている。
今回、年齢別データを見る方法については、紙面の関係から実例を省略し、最後の高齢化比率との相関図を描く方法の実例を次に挙げよう。