2015.10.26 仕事術
第8回 視察のための質問ポイント(4)~視察をする立場により、得られる知見は異なる~
視察をするスタンスにより得られる知見は異なる
昨今は、再び武雄市図書館がマスコミに登場する機会が多くなってきた。同図書館は株式会社カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)が指定管理者となり運営している。図書館内にはカフェが併設され、 コーヒーを飲みながら本を読むこともできる。今までにない図書館の形態であり、画期的な取組である。しかしながら、以前から同図書館について、賛否両論がある(ここでは賛否両論は取り上げない)。
注目を集める武雄市図書館は、当然、視察件数も多い。視察に行った議員や自治体職員は、同図書館の何を視察に行ったのだろうか。図書館を視察に行ったのか。あるいは集客施設を視察したのか。あるいは別の機能を視察することが目的なのか。視察事例はそれを見る観点により得られる知見は異なることを指摘しておきたい。
誤解を覚悟で指摘すると、武雄市図書館は図書館法という観点から見ると、図書館から多少は逸脱している点があるように感じる。その意味では同図書館は図書館ではないかもしれない。同図書館を批判的に捉える人は、“あるべき図書館の姿”という視点から指摘しているように思える。繰り返すが、図書館法が規定する図書館という観点で見ると、必ずしもいい事例ではないかもしれない(現時点では、図書館としてはいい事例ではないかもしれない。しかし未来から現在の武雄市図書館を振り返ったとき、新しい図書館の形を提起した取組であり、いい事例となっているかもしれない)。
一方で、図書館という概念をなくし、集客施設という観点から捉えると、武雄市図書館は成功事例である。同図書館は、2013年4月1日のリニューアルオープンから2014年3月31日までの来館者数は約92万3,000人と発表している(前々年比3.6倍)。1日平均約2,500人の来館者数である。地方都市において、1日約2,500人も集める集客施設はそう多くはない。つまり集客施設としては成功した事例と考えられる。
武雄市図書館に視察に行った人は、何の知見を得るために、現地に足を運んだのだろうか。“図書館機能”か“集客施設としての機能”か。あるいはそれ以外の機能か。視察事例は、何の知見を得ようとして行うのかというスタンスにより大きく異なってくる。このことを認識して視察に行くべきなのである(図書館として武雄市図書館を視察した人は、図書館法等、図書館に関する基本的要点を把握してから視察に行っているのだろうか)。なお、すでに言及しているが、視察は成果を模倣するのではなく、過程を移転していくところに意義がある。
●視察項目の検討のポイント
(1)視察に訪れた自治体(名)を聞き、その自治体の動向も把握する。
(2)視察事例を創出するに当たり、参考とした取組を把握する。
(3)視察は見る立場により異なってくる。「何を視察するのか(何の知見を得るのか)」を明確にする。
●筆者が勧める視察先
地方創生の取組が活発化している。筆者は様々な自治体に関わってきた。その中で、次の3自治体を紹介したい。
・丸森町(宮城県)
子ども創生会議を実施して、子どもの意見を地方創生に反映させようとしている。現在、一斉に策定が進む地方版総合戦略は2060年の目標人口を記している。2060年に生きているのは、今の子どもたちである。丸森町のように子どもの視点を反映させた取組が出てきてもよいと思う。
・西海市(長崎県)
結果として、ほとんど自前で地方人口ビジョンと地方版総合戦略を策定した(実質の稼働者は課長と係長の2人のみと思われる)。コンサルタント等の外部主体はほとんど活用していない(というより、策定を急いだため活用できなかった)。ひとつの大きな柱としてシティプロモーションを掲げている点が特徴である。
・東大和市(東京都)
筆者は、たまたま今年度は、様々な自治体の地方創生に関わっている。その中で、いい意味で基本に忠実に実施しているのが東大和市である。例えば、全庁的(部長会議、課長会議、担当者会議)に取り組んだり、産学官金労言の委員会を立ち上げたり、将来推計人口も様々なシミュレーションを実施している。自治体の計画策定に参考になる事例である。
●推薦する図書
・矢作弘『縮小都市の挑戦』岩波新書(2014年)
現在、自治体の方向性は「拡大都市」と「縮小都市」に大きく分けられる。「拡大都市」とは、人口減少時代においても、積極的によい行政サービスを提供することで、今までどおりに人口の拡大を目指すことである。また、周りが人口を減少させる中で、人口の維持を達成しようとする自治体も「拡大都市」と捉えることができる。あるいは、国は2060年に人口約1億人の維持を目標に掲げている。この数字は現在より17%減である。人口17%減以内も「拡大都市」と捉えることができるかもしれない。
一方で「縮小都市」とは、人口減少の事実を受け入れ、人口が減少しても元気な自治体を目指していく思考である。17%減以上の人口減を是認する場合は「縮小都市」といえるかもしれない。
今日の地方創生は、基本的に「拡大都市」を志向する自治体が多い。しかし、現実的には「縮小都市」を選択せざるを得ない自治体もあるだろう。その「縮小都市」について記しているのが同著である。「縮小都市」について様々なヒントが掲載されているため、関心のある読者は一読されるとよいと思う。