2015.08.25 仕事術
第6回 視察のための質問ポイント(2)〜視察は具体的に聞く〜
大項目に気をつける
もうひとつ簡単な技法を紹介する。それは「大項目に気をつける」ということである。例えば、観光振興に成功した自治体を視察し、そこで「ここ数年は観光客が増加していますが、観光客は何を目当てに来ているのですか?」という質問をしたとする。それに対して視察先の担当者が「我が市の自然に注目が集まり、多く来ています!」と言うことがある。担当者の発言の中にある「自然」は大項目である。この回答からは何ら知見が得られない。
そもそも「自然」は日本全国どこにでもある観光資源である。つまり話が大きすぎる(=大項目)のである。大項目の回答は、全く意味がないため注意し、大項目が出た時点で、再度聞き直すとよい。例えば、「自然ですと対象が大きすぎるので、その中身を具体的に教えてください」と聞く。そうすると「バスで頂上まで行ける手軽さがウケて……」とか「ミシュラン三ツ星に認定された高尾山が注目を集めて……」という回答が得られる。この回答により「自然」の中身がより具体的に理解できる。なお、前者の「手軽さ」という要素は自分たちの自治体に移転可能性が高い。しかし後者の「ミシュラン三ツ星」は自分たちの力だけではどうにもならない部分があるため、移転可能性が低くなるだろう。
もう1点だけ議会について言及すると……
先述したとおり、議会の法的根拠は日本国憲法93条「地方公共団体には、法律の定めるところにより、その議事機関として議会を設置する」にあるが、読者はこの「議事機関」の意味を理解しているだろうか。日本国憲法の逐条解説には、議事機関を「議事の内容を審議し、議決する機関」と書かれている。これだけだと、分かったようで、実はよく分からない(議事機関であり議決機関と書かなかった点に深い意味がある、と筆者は勝手に思っている)。
そこで条文の英訳を持ってくる。英訳は「The local public entities shall establish assemblies as their deliberative organs, in accordance with law」とある。この中で議事機関とは「deliberative organs」と訳されている。deliberativeとは「審議する」「熟慮の」「熟議の」という意味がある。つまり議事機関とは「熟慮する機関」や「熟議する機関」という意味があると解される。熟慮とは「いろいろなことを考えに入れて、念入りに検討すること」と定義される。熟議とは「十分に論議・相談をすること」となる。そのように考えると、議会は「議員個人として熟慮して、議会全体として熟議する」機関という意義があるのだろう。読者の所属している議会は「deliberative organs」となっているだろうか、改めて振り返ってみてほしい。
●質問項目を検討するためのポイント
(1)形容詞に気をつける。形容詞の中身を確認する。
(2)大項目に注意する。大項目ではなく小項目の観点から聞いていく。
(3)何事も「具体的に」聞くことが大事である。
●筆者が勧める視察先
今回は職員研修の成功事例を紹介したい。磐田市(職員課)の「草莽塾」や鎌倉市(政策創造課)の「鎌倉草創塾」がある。職員研修といいながら、研修だけではなく理事者に対する政策提言も行っている。そのため中長期的な研修である(1日から数日だけ参加して終了ではない。半年以上である)。政策提言を目指して、政策研究と政策立案を進める過程で職員としての成長が図られる。
この手の研修を実施しているのは、秋田県の自治研修所(三識研修)、こうち人づくり広域連合(政策研究共同事業)、彩の国さいたま人づくり広域連合(政策課題共同研究)などがある。
●推薦する図書
・篠原匡『ヤフーとその仲間たちのすごい研修』日経BP社(2015年)
書名は「すごい」となっているが、そんなにすごくない。「すごくない」理由は、本書で紹介されている研修は、上記の「筆者が勧める視察先」で言及した磐田市や鎌倉市等ですでに実施されているからである。しかし、政策提言を前提とした研修を進める上での様々なヒントが記されている。