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2015.07.27 仕事術

第5回 視察のための質問ポイント(1)〜視察は「6W4H」で聞く〜

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メリットとデメリットも把握する

 6W4Hに加え、視察した政策や取組の「メリット」と「デメリット」も把握しておく。視察先の担当者の口から発せられるメリットは定性的なことが多い。そこで客観的な数字も、可能な範囲で提供してもらうとよいだろう。
 例えば、防犯まちづくりについて視察をした場合は、担当者の口からはメリットとして「住民間で防犯まちづくりの意識が高まった」や「声かけ運動によりコミュニティ意識が強まった」という定性的な回答が発せられることが多い。それに加えて「『防犯』まちづくり」を視察しているのだから、刑法犯認知件数や検挙率の推移も定量的な数字として把握しておく必要がある。
 一方で、政策には必ずデメリットも伴う。観光振興をすれば、地域経済が活性化するメリットがある反面、交通渋滞の発生やごみ問題等がデメリットとして出てくることもある。そこで、政策展開により発生したデメリットも捉えておくとよいだろう。視察先の担当者が「デメリットはありません。メリットばかりです!」と言うことがある。このような視察先は、担当者がデメリットに気がついていない時点で成功事例に成り得ない。あまりしつこく「デメリットは何ですか?」と聞くと、視察先の担当者の気分を害してしまうため注意が必要である(視察先の担当者の気分を乗せることも大切である。「ほほ~」「そうですか!」「すごいですね」「そうなんですか~」と相づちを打ちながら視察を進めると担当者が気分よく話してくれる)。
 また、誰にとってのメリットかデメリットかという「誰にとって」も確認する必要がある。自治体にとってなのか、住民にとってなのか、政治家である首長なのか、地元の事業者なのか……という誰である。この「誰にとって」のメリットかデメリットかも押さえておく。
 さらにいうと、視察先の担当者が隠すことなく政策展開におけるデメリットを教えてくれたのならば、そのデメリットをどのような手段で縮小や解消しようと試みているのかも尋ねるとよいだろう。政策にはメリットとデメリットがあることを認識し、発生すると想定されるデメリットに対して的確に次の政策を用意しておく自治体こそ、先進事例であり、成功事例となっていく。
 メリットとデメリットに加え、最近はやっている地方創生は、「重要業績評価指標」(KPI)を求めている。このKPIも視察で尋ねていく必要がある。つまり視察の対象とする政策のアウトプットとアウトカムである。この点については次回以降で言及する。

「先進自治体への視察」に違和感を持つ

 余談になるが、常日頃、筆者が疑問に思っていることがある。それは「先進自治体への視察」というフレーズである。自治体職員や議会議員が政策づくりを進めるとき、しばしば先進自治体に視察に行くことが多い。そして視察を受け入れる自治体も、基本的に「ようこそ★」のおもてなしの精神で迎えている(業務が多忙のとき以外は、依頼のあった視察を断ることはほとんどない)。
 筆者は「先進自治体への視察」に違和感を持っている。初めて違和感を抱いたのが横須賀市に勤務したときであるため、もう15年くらいモヤモヤとしている。
 民間企業を例にすると、筆者が視察に関して抱く「モヤモヤ感」が理解できると思う。普通に考えて、次の会話が成立するであろうか。

ミクドナルド(という会社があるとする)
 「当社は消費者離れが進んでおり、現状はじり貧である。そこで新商品を打ち出したいと思っている。ついては、消費者の嗜好(しこう)を的確につかんでいるマスバーガーさんが一歩先を進んでおり、とてもよい先進事例であるので、そのノウハウを教えてもらいに視察に行こう!」

マスバーガー(という会社があるとする)
 「ミクドナルドさん、ぜひ視察にいらしてください★弊社の商品開発の工程をはじめ、売上げ拡大を実現している弊社独自のマーケティングなど、ノウハウの全てを教えちゃいます!」

 民間企業においては、筆者は上記の会話が成立するとは思えない。なぜならば、マスバーガーの企業秘密をミクドナルドに教えるということは、ライバル企業を増やすことにつながるからである。その結果、マスバーガーの存亡の危機を招いてしまう可能性がある(繰り返すが、ミクドナルドもマスバーガーも架空の会社である)。しかしながら、自治体の場合は上記の会話が成立してしまう。実に不思議なことである。
 現在、筆者が関わっている自治体は視察の受入れが多い。担当者は「視察の依頼がある」と、とても喜んでいる。そして視察に来る自治体等に対して、一生懸命に政策のマル秘ノウハウ満載の資料を作成したり、視察中はおいしいお茶を出したり、しかも最高の笑顔で迎えて対応している。民間企業ではとても考えられない行動をとっている。
 筆者には、依然として不可思議であるが、視察を受け入れている当事者が満足しているし、視察に来た人たちも満面の笑みを浮かべて帰っていくので、それはそれでよいような気もする……。

●質問項目を検討するためのポイント
(1)質問は6W4Hを意識して設計する。
(2)政策や取組は抽象的ではなく具体的に把握する(例えば単に政策のターゲットとして「子育て世帯」という回答だけでは抽象的であるためダメである)。
(3)政策展開により発生するメリットとデメリットも把握する。

●筆者が勧める視察先
 近年はシティプロモーション(シティセールス)がじわじわとはやっている。筆者が立ち上げに関わった「シティプロモーション自治体等連絡協議会」がセミナーを開催すると、そこそこ集客できる状態になった。また同協議会への問合せも多くなっている。
 シティプロモーションの先進事例は民間企業である。民間企業はプロモーション活動のノウハウがある。そこで、民間企業に視察に行くのも一案だろう。「視察先は自治体だけではない」ということを知るべきである。
 例えば、具体的な視察先として、電通や博報堂という大手の広告会社に加え、地元密着の広告会社も参考になるだろう。積極的に民間企業に視察に行くことを勧めたい。

●推薦する図書
 ・大石哲之『コンサル一年目が学ぶこと』ディスカヴァー・トゥエンティワン(2014年)
 東京駅で購入し盛岡駅に着く頃には読み終えることができた(本稿執筆時、盛岡に出張に来ている)。文章は平明であり、全体的に極めて分かりやすく書かれている。視察に関するヒントが多々あるし、政策づくりに使えるノウハウも盛り込まれている。同著を読んでコンサル活動に関心を持ったら、もう少し難しい図書に挑戦してもよいと思う(コンサル活動とは“政策づくり”そのものである)。

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