2015.07.27 仕事術
第5回 視察のための質問ポイント(1)〜視察は「6W4H」で聞く〜
一般財団法人地域開発研究所 牧瀬稔
今回から数回は、視察時における質問のポイントを解説していく。質問のポイントは細かく挙げたらきりがない。その中で、筆者が重要と認識している内容を順次紹介していきたい。
前回言及したとおり、視察のマナーとして事前に質問事項を視察先に送付することになる。その送付する質問事項に、下記で言及する要点を盛り込むとよいだろう。
「5W1H」は視察においても活用できる
読者は「5W1H」を聞いたことがあると思う。これは「What(目的・何を)」「Why(理由・なぜ)」「Who(主体・誰が)」「When(時期・いつ)」「Where(場所・どこで)」「How(方法・どのようにして)」のことであり、一般的に、趣旨説明や情報伝達のポイントと称される。「いつ」「どこで」「誰が」「何を」「なぜ」「どのように」という順序がよいとされている。伝えたいことを5W1Hに沿って整理する。そして、5W1Hに分けて相手に伝えるように意識することにより、相手の理解がスムーズに進むことになる(5W1Hを活用することで、趣旨や情報が「伝える」から「伝わる」に変化する。何事も「伝わるように伝える」ことが大切である)。
5W1Hは趣旨説明や情報伝達だけに限らない。政策(施策や事業を含む)を分解し、政策の内容をしっかりと把握するのにも役立つ。また政策を提案するときにも、5W1Hを意識することで、より実行性のある提起をすることができる。5W1Hは趣旨説明や情報伝達に限らず、様々な場面で応用が効くのだ。
さらに、5W1Hは視察においても活用できる。視察先を訪問し、先進事例について聞く際に5W1Hを意識することで、その内容をしっかりと把握することができるようになる。ぜひ5W1Hを活用して視察先の先進事例の把握、質問を実践してほしい(なお、すでに本連載で言及しているが、先進事例と成功事例は異なるため注意が必要である)。
実は1W3Hを足して「6W4H」が重要
ただ、視察先の取組を深く理解するには、5W1Hでは足りないことがある。つまり、5W1Hでは限界がある。そこで、5W1Hに1W3Hを加えて「6W4H」で聞くことを提案したい。
1Wとは「Whom(対象・誰に)」である。“政策により影響を受ける対象者”を把握する必要がある。対象者が明確でない政策は、効果が曖昧になってしまう。そこで「誰を対象に政策を実施したのか」というWhomを確認する必要があるだろう。
さらにいうと、Whomは具体的に把握することが求められる。例えば、筆者が「誰を対象に事業を実施したのですか?」と尋ねると、担当者が「子育て世帯です!」と回答することが多い。この「子育て世帯」という回答からは、何も知見が得られない。
実は「子育て世帯」という概念は曖昧である。子育て世帯は幅広く、子どもの年齢でいうと0歳~18歳まで該当する。あるいは18歳でとどまらず30歳まで拡大解釈している場合もある。つまり「子育て世帯」という回答では、Whomが絞られていないのである。
視察先で上記のように「子育て世帯です」と回答された場合は、再度「子育て世帯とは子どもの年齢を何歳から何歳までと設定していますか」や「子育て世帯の母親の年齢は何歳から何歳と捉えていますか」と、具体的に聞き直す必要がある(さらにいうと子育て世帯の家族構成も重要である)。再度、子育て世帯の中身について質問をして「子育て世帯とは◯◯である」と明確な回答(定義)が得られない自治体は、単なる先進事例であり成功事例ではない(もしかしたら失敗事例かもしれない。失敗事例と認識したら反面教師として役立てる)。政策づくりは具体的に現状を把握していくことが求められる。
続いて3Hとは「How Many(数量・いくらで)」「How Much(予算・いくらで)」「How Long(期間・いつまでに)」である。
これからの時代は、全ての住民に対して政策を実施する時代ではない。むしろ様々な制約から実施できない実情がある。本当にその政策を必要としている住民に対して、政策を展開していく必要がある。その意味でしっかりと「How Many」を把握していく。ちなみに「How Many」は「Whom」と密接にリンクしている。すなわち「Whom」で設定した対象者の全員なのか(10分の10)、半分なのか(10分の5)という問題がある。視察で質問する際には、実施した(実施する)事業の数量を確認した上で、そのように設定した理由も押さえなくてはいけない。
また、自治体財政は無限ではない。予算には限界が伴う。その意味では「How Much」も確認しておく必要がある(可能ならば、“対象者1人当たりに費やされた政策費”を確認することが望ましい)。そして「How Long」も必須である。当たり前であるが、永続的に政策を実施できるわけではない。今日、多くの政策が期限を決めて取り組まれている。この「How Long」も把握しつつ、その設定した期限の根拠も明確にしておくとよいだろう。
このように、視察先に質問する際には「6W4H」を意識していくとよい。「6W4H」を念頭に置いて質問項目を作成していく。また視察当日のやりとりは、「どのようにしたら、自分の自治体への移転が可能となるか」を念頭に置き、進めていくことも肝要である。