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2015.06.25 選挙

住民投票の投票率

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成立・開票要件

 もっとも、住民投票の際に注意しなければならないのは、小平市の事例が典型であるが、一定の投票率を成立・開票要件とすることがあるということである。つまり、ある程度の多くの住民が投票しないような住民投票の結果は、そもそも尊重するに値しない、というものである。極端な例でいえば、5人しか投票せずに3対2で決まっても困る、ということである。それはその限りではもっともなのであるが、現実にはそのような超低投票率はあり得ず、問題は別のところに発生する。
 それがボイコット問題である。賛成派35%、反対派30%、無関心派35%くらいの分布が予期されているときに(実は、大阪市の状況がこれに近かったともいえる)、成立要件が50%であれば、反対派はどうするであろうか。投票に行けば、投票率65%で、賛成35%(相対的には54%)、反対30%(相対的には46%)で敗北する。しかし、反対派が組織的にボイコットすれば、投票率35%、賛成35%(相対的には100%)、反対0%となり、不成立となる。つまり、有権者に同じような関心があったとしても、成立要件があれば投票率は見かけでは低くなるのである。
 小平市などは、このようなケースであったといえよう。普通に想定すれば、都道計画見直しを求める人は投票に行ったが、見直しを求めない人は、住民投票が成立しなければ、現在の為政者の決めた方針どおりに見直しせずに進むのであるから、成立しない方がよい。とすれば、ボイコットをするのが合利的になる。もっとも、組織的ボイコットをすると、投票に行った人はほとんど見直し賛成派となる。とすれば、開票すると100対0となって、「賛成の民意が圧倒的だ」と「誤解」されかねない。とすると、小平市は、成立要件を課してボイコット運動を促進した以上、つまり、投票行動をゆがめる制度をつくった以上、恥ずかしくて開票できないということになる。
 ちなみに、5.17大阪市の住民投票に、もし成立要件50%が課されていたら、同様のボイコット運動が起きたかもしれない。大阪都構想推進派は、《成立して賛成多数》となることが必須である。しかし、大阪都構想反対派は、《成立して反対多数》でも《不成立》でもよい。反対派としては、接戦又は不利が予想されるならば、《不成立》を目指してボイコット戦術をとるのは、それなりに合利的になる。実際に、賛成派33%、反対派34%、無関心派=棄権33%であったわけであるから、反対派はボイコットした方が無難である。そうなれば、投票率も33%止まりであり、小平市と大差なかったであろう。逆にいうと、小平市の潜在投票率は、見かけよりも相当に高いのかもしれない。
 所沢市の場合には、投票率による成立要件を課さずに、絶対得票率(有権者に占める特定選択肢の賛成者の割合)を「重く受け止める」要件として、ボイコット運動を回避しようとしている。例えば、相対的には劣勢のエアコン設置反対派がボイコット運動をしても、どうしても賛成という人が投票に行き、それが規定の3分の1に達してしまえば、意味がないからである。要は、相手がどうであれ、どうしても強く賛成という人がいれば、ボイコットと無関係に成立する。ならば、賛成派も反対派も関心があるならば、投票に行くということになる。その結果が32%なのであり、見かけの投票率は小平市と近いが、これは潜在投票率と見かけの投票率に、あまり違いがないといえよう。とするならば、小学校のエアコンは、やはり都道建設よりは、住民投票で問いかけるほどの切実さがなかったということなのであろう。

首長・議会選挙に成立要件を課すと?

 さて、こうしてみると、首長・議会選挙は低投票率にあえいでいるが、同時に成立要件が課されていないことも、興味深い。代表民主主義の正統性を疑わせるほどの低投票率は問題であり、そもそも多くの有権者が信託をしていない首長・議員に、代表として振る舞う資格はないという発想は有力である。とするならば、住民投票に見られるように、例えば、投票率50%の成立要件を課すという話があってもよいかもしれない。
 成立要件を課すとボイコット運動が組織化される可能性がある。首長選挙でいえば、有力候補者Xがいるときに、対抗馬Yでは勝ち目がないときに、ボイコットして投票率50%を割り込めば、Xは首長になれない。自己の推すYも首長になれないが、Xがなることを阻止できるので、次善の策ではある。議会選挙でも同様で、有力候補A、B、C、Dが当選しそうで、自派はYしか当選できないと、A、B、C、D対Yで圧倒的に不利な議会構成になる。それくらいならば、選挙を成立させない方が、A、B、C、Dの議会支配を防ぐ意味でも、よほどましである、ということである。
 住民投票の場合、成立要件をクリアせずに不成立となれば、もともといる首長・議員という為政者が「代表」として決めるだけである。しかし、選挙で成立要件をクリアできないと、結局、首長・議員の不在状態になる。こうしたリスクを考えると、選挙には成立要件を課しにくいという話になりやすい。ましてや、自治体などの投票率は、ボイコット運動などもないのに、3割などということは珍しくもない。このような環境の下、成立要件を課せば、軒並み首長・議員不在という状態が続出するであろう。常識的にいえば、首長や議員がいないと、自治体として意思決定できないので、困るだろう。
 ただし、本当にそうなのか、常識を疑うことも必要かもしれない。


(1) 一般には、「大阪都構想住民投票」と呼ばれている。大阪市選挙管理委員会は「特別区設置住民投票」と命名している(http://www.city.osaka.lg.jp/contents/wdu240/jutou/)。

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