2015.05.25 仕事術
第3回 良い視察先と悪い視察先~正しい視察先を選定するための視点(2)~
政策形成サイクルを意識した視察を
上記の政策研究から政策評価の意味を簡単に説明する。「①政策研究」は、課題や問題を的確に把握することから始まる。この時点は地道なデータ収集や検討という単調な作業が主体となる。この過程で「視察」も行われる。その後、得られた結果を考察することで、課題や問題を生じさせている原因を認識し、その背景などを分析する。そして課題や問題に対して、どのような方向性で臨むか、どのような対応策で進めるかを検討する段階である。
次は「②政策立案」である。政策研究により、ある程度、課題や問題が明らかになる。それらの中から、対処すべきと認知された課題や問題について、方向性や対応策を具体化する段階である。その後「政策案」として提示される。この政策案は事業案と捉えてもよい。課題や問題を解決するための具体的な手段である「事業案」を複数考えることが大切である。
そして「③政策決定」となる。「②政策立案」において議論し提案された政策案(事業案も含む)について、決定権限を有する者が審査し決定する段階である。「②政策立案」において作成された政策案に対し、利害関係者との調整が行われ、最終的な合意形成がなされ政策が決定される。
続いて「④政策実行」に移る。「③政策決定」で決まった政策を実施する段階である。ここでは「①政策研究」→「②政策立案」→「③政策決定」という流れを経て、「④政策実行」として、具体的な政策活動となって体現される。なお、政策を実行するのは自治体職員(補助機関)である(議会は執行権がないため政策実行はできない)。
最後は「⑤政策評価」である。「④政策実行」で実施された政策について、その効果や必要性等を検証し評価される。この「⑤政策評価」においては、必要に応じて実施した政策の拡充・継続・修正・転換・縮小・廃止等が決定される。
以上が政策研究から政策評価までが持つ意味合いである。視察は独立しているのではなく、視察で得られた知見等が政策立案、政策決定、政策実行、政策評価に関係していく。そこで視察先の選定に当たっては、「どのように実行されるか(政策実行)」や「どのように評価されるか(政策評価)」など、政策形成サイクルを意識しながら考えていくことが重要であり、また、実際に視察に行ったときは、政策形成サイクルを意識して質問していくことが大事である。
ここまで書いてきて、本連載の「らくらく視察力アップ」の「らくらく」が達成できていないことに気がついた(本稿における政策評価である)。次回は「らくらく」を目指して説明していきたい。
視察先選定のポイント
(1)少しは政策研究をした上で視察先を決定する(そして視察先に行く)。
(2)政策研究のひとつが視察である。視察先の選定は政策形成サイクルを意識する。
(3)実際に視察に行ったら、政策形成サイクルを頭に入れつつ質問する。
●筆者が勧める視察先
北陸新幹線が開通したことにより金沢観光がにぎわっている。そのため金沢方面への視察が増えていると聞く。金沢方面の視察もよいが、過去の新幹線特需の地域に視察に行ったらどうだろうか。過去を振り返ることにより、新幹線特需の光と影が理解できる。
・新庄市(山形新幹線)
・鹿児島市(九州新幹線)
・青森市(東北新幹線)
それぞれの運行開始の時期は、新庄駅(新庄市)は1999年12月4日であり、鹿児島中央駅(鹿児島市)は2011年3月12日である。新青森駅(青森市)の東北新幹線は2011年3月5日に運行を開始している。それぞれの地域の光と影が今でははっきり理解できる。
●推薦する図書
今回は主に政策形成サイクルについて言及した。政策形成サイクルは視察に限らず、政策づくり全般において重要な概念である。議会における政策形成を学ぶには、次の図書が参考になる。
・会津若松市議会編『議会からの政策形成』ぎょうせい(2010年)
この図書のよい点は、現場に即しており実体験に基づき書き込まれていることである。大学教員のような机上の学問ではない。つまり議会活動に「使える」のである。視察の視点に限らず、議会活動を進めるに当たり様々なヒントが得られると思う。