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2015.05.11 女性と議会

自治体議会の女性議員と産休

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出産と会議欠席の事由

 出産の前後、女性議員は、議会の会議を欠席することになる。これまでの議会会議規則では、一般的には、「議員は、事故のため出席できないときは、その理由を付け、当日の開議時刻までに議長に届け出なければならない」と規定している。
 欠席事由としては事故のみが成文化されている。実際には、そのほかに病欠や介護などの事由で欠席を認めることはあるが、この「事故」に出産が含まれるのかどうか定かではない。仮に含まれるとすると、出産は「事故」になるのであろうか。
 普通、「事故」といえば、「思いがけず起こった悪い出来事」のことである。女性議員の妊娠・出産は想定外の歓迎すべからざる事故になるのであろうか。多くの自治体議会では「産休は議員になじまない」等の理由で、出産を会議欠席の事由に加える規則改正を先送りにしている。

産休制度と議会会議規則の改正

 労働基準法は、出産前に6週間、産後8週間の産休を権利として認めているが、これは国会・地方議会を問わず女性議員には適用されない。雇用主がいないためである。
 国会は、橋本聖子参議院議員の出産をきっかけに、両院とも出産を理由にした欠席を認め規則を改めた。参議院規則は187条の中に、2000年から「公務、疾病、出産その他一時的な事故によつて議院に出席することができないときは、その理由を記した欠席届書を議長に提出しなければならない」と規定しているし、衆議院規則は185条2項で、2001年から「議員が出産のため議院に出席できないときは、日数を定めて、あらかじめ議長に欠席届を提出することができる」としている。自己申告制であるが、会議欠席事由とし出産を明文化した。これを受けて、地方議会でも同様の規定を設ける動きが出始めた。
 全国都道県議会議長会の標準都道府県議会会議規則(最終改正平成24年10月11日)では、「第1条 議員は、招集日の開議定刻前に議事堂に参集し、その旨を議長に通告しなければならない。第2条 議員は、公務、疾病、出産その他の事故のため出席できないときは、その理由を付け、当日の開議時刻までに議長に届け出なければならない。」となっている。
 NHKが2014年9月、全国の都道府県議会、政令市、東京23区の議会を対象に行った調査結果の報道(9月5日)では、47の都道府県のうち45の議会が規定をすでに設けていたが、全国20の指定都市の議会で設けていたのは7つ、東京23区の議会では3つで、合わせて全体の2割程度にとどまっていた。
 自治体議会で、こうした規則改正が進まないのは、「地方議員は非常勤の特別職」であるとする地方自治法の捉え方が関係しているかもしれない。地方議員は特別職であるが、非常勤であると決められているわけではない。議員には「給料」ではなく「報酬」を支払わなければならないことになってはいるが、それは非常勤だからではない。したがって、産休制度はなじまないということにはならない。
 もうひとつ、欠席を認められると、その理由を問わず議員報酬が支給されるため、出産により議会を休むと「給料泥棒だ」、「税金で食っているくせに」という非難を浴びやすい。これを克服するためには産休を堂々ととれるようにしなければならない。欠席事由に「出産」を明記することによって、議会内や住民への認知・理解を広げる必要がある。
 東京都新宿区議会は、特例として、区の職員の産休制度を議員にも適用し、出産の前後8週間ずつ産休をとることができるようにしている。区職人事規則を準用したのは、妊産婦はその職業・地位にかかわりなく母体・母子保護の観点から平等に扱われなくてはならないからだとしている。
 ただし、議員NAVI Vol.48(2015年)29頁で鈴木ひろみさんが指摘しているように、新宿区議会では、会議規則の成文化(議運決議)ではなく、議運理事会決定によっている。明文化が本来望ましいが、新宿区議会方式は産休制度の導入が容易であることを示しており、議会規則改正に躊躇(ちゅうちょ)している自治体議会の参考になろう。
 男女の性差は、確かに妊娠・出産に結びつく生理的機能や身体的な特徴については存在する。しかし、それを理由に差別しないのが男女共同参画の基本である。欧州では政治家の産休や育休の取得は常識になっている。北欧諸国では、父母ともに産休・育休が認められ、産休などで出席できない議員に代わって意思表示をする代理議員や代理投票の制度すらあるという。
 女性が活躍できる社会の実現を目指そうとするなら、また人口減少に歯止めをかけようとするのなら、我が国の自治体議会は一日も早く女性議員の妊娠・出産を「事故」ではなく慶事として祝福できるようになることである。まず問われているのは男性議員たちの意識改革である。産休の明文化は、その第一歩である。

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