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2017.07.10 仕事術

記者会見から考える外見リスクマネジメント(下)

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広報コンサルタント/公共コミュニケーション学会理事 石川慶子

 記者会見は多数の記者を相手に説明するだけでなく、記者からの質問にも対応する場ですが、説明内容だけでなく、非言語コミュニケーションとしての外見、すなわちどう見えるのかを意識した準備が必要です。なぜ必要なのかを事例から考えてみましょう。(※この記事の(上)はこちらから)

3 男性政治家の釈明と外見

 甘利明議員は、2016年1月28日、金銭授受疑惑の責任をとって経済再生担当大臣を辞任しました。秘書による現金授受を認めて「政治家以前に人間としての品格を疑われる行為であります」と述べ、時折涙を浮かべながら会見。自分が面識のない第三者による調査をすると説明しました。このとき着用していた服はダークグレーのスーツに細かいドットのネクタイで完璧に公式感のある服装でしたので、違和感はありませんでした。説明内容も服装もダメージコントロールができていた成功例といえるでしょう。会見に参加した記者は「ああ、悔しいんだろうな」と同情というか共感すらにじませるような感想を漏らしていました。その後の行動も戦略的です。「睡眠障害」を理由に国会閉会まで欠席し、報道陣を避け、6月6日、こっそりと人前に姿を現しました。6月は舛添都知事の報道合戦が行われていたので誰も甘利議員には関心を示さず、復帰を果たしました。結局この件は同年不起訴となり、8月には公訴時効成立となりました。実にしたたかな行動であったといえるでしょう。戦略家は服装だけでなく全てにおいて抜かりなくやりきるということが分かります。
 では、史上初の不倫で議員辞職という不名誉な結末になってしまった宮崎謙介元議員のケースを詳しく見てみましょう。男性の育児休暇取得を推進していた宮崎謙介元議員は、2016年1月末、妻が切迫早産で緊急入院していた間に女性タレントと不倫していたことを週刊誌に報じられ、2月12日の記者会見で議員辞職を表明しました。離党程度と思っていた記者や国民の想像をはるかに超えた重い責任の取り方は評価したいのですが、相手の女性について何回会ったなど不必要なコメントも多くあり、脇の甘さが出ていました。この会見で着用していたネクタイは水色の光沢感のあるストライプ。議員辞職表明に当たっては華やかすぎる装いでした。自分の軽率な行動について反省の気持ちを表した服装とはいえません。このときのネクタイは公式感の高いもの、細かい柄を選択するべきでした。議員辞職という重い決断をしたにもかかわらず、軽く見えてしまうのは実にもったいないことです。
 歴史的な不名誉な辞職となってしまった舛添要一前都知事のケースを見てみましょう。2016年3月に公表された海外出張費の使い方から始まり、政治資金問題にまで発展。記者会見をするたびに批判は高まり、とうとう6月に辞職に追い込まれました。4月の定例記者会見から何度も質問を受けていましたが、反省の態度を示すというよりは「ご理解いただきたい」といった上から目線の態度であったこと、説明がくどいために聞いている人をイライラさせてしまったことが批判の的になっていたといえます。5月13日に謝罪の姿勢で臨んだ記者会見では、いつもと同じグレーのスーツ、謝罪の言葉も読み上げるだけで心がこもっているとはいえませんでした。しかも会場に出てくるなりペットボトルの蓋を開け、水をごくごくと飲んでから、謝罪のコメント。複数の記者から「あの水の飲みっぷりがやけに気になるんだよ」という声が聞かれました。それもそのはず、謝罪で緊張している人が出てくるなり水を飲む姿は私も初めて見ました。そう、これもいつもどおりの行動でした。また、ある女性は「グレーのスーツは事態を軽く見ているとしか思えない、姿勢を正してほしい」と語っていました。国民が受けた印象を代表するような感想です。では、どうすればよかったのでしょうか。公式感のある紺色かチャコールグレーのスーツを着用するべきだったのです。彼の場合には服装もコメントも態度もすべて「いつもどおり」であった点が最大の失敗でした。いつもどおりではなく、いつもと違って神妙にして反省の気持ちを伝えるべきだったのです。

4 外見リスクマネジメントの必要性

 政治家の危機発生時のコミュニケーション活動についてどう見られているかに焦点を絞り、私自身の専門家としての経験値に基づいて考察をしてきました。これらの事例に共通することは何でしょうか。この中では小渕優子議員と甘利明議員の対応はコメントも服装も含めて高く評価することができます。内容と外見が一致しているからです。それ以外の人については内容と外見が一致していないため、見ている人に違和感や不安感を与えてしまっています。
 危機管理広報(クライシスコミュニケーション)とは、危機発生時のダメージを最小限にするためのコミュニケーション活動です。2012年福島原発事故に関する政府の事故調査・検査委員会は最終報告書で「官房長官に適切な助言をすることのできるクライシスコミュニケーションの専門家を配置する」ことを提言し、クライシスコミュニケーションの重要性を記載しています。また、コミュニケーションには言語と非言語があり、非言語の中でも外見に占める要素が大きいという研究結果が出ています(アルバート・メラビアン)。
 では、外見とは何でしょうか。表情、髪型(&メイク)、服装や身だしなみ、歩き方やしぐさなどの動き、姿勢・立ち方、の5要素から成立していると私は整理しています。危機管理広報(クライシスコミュニケーション)においても伝え方を失敗すると「反省の気持ちがない」と思われてさらなるダメージにつながってしまいます。したがって、私たち危機管理広報の専門家がこの活動をする際には、注意深く準備を進めます。知識さえあれば、余計な批判は避けることができるのです。人前に立つ職業の人は基本知識を身につければ批判を減らすことができ、信頼回復の道が早くなるといえるでしょう。
 この非言語コミュニケーションの中でも特に外見に焦点を絞り「外見リスクマネジメント」として私が提唱したのは2015年2月。見られたい自分の姿と実際に見えている自分の姿にギャップがあることをリスクと捉え、そのギャップを埋めるセルフマネジメントのこと、と定義しています。今回は必要性までをまとめましたので、具体的な進め方については別の機会に執筆したいと思います。本稿の反響を待ってということにいたしましょうか。では、皆さんからのご意見をお待ちしています。

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■参考文献
◇東京電力福島原子力発電所における事故調査・検証委員会最終報告書(2012年7月23日)。
◇リスクマネジメント規格活用検討会『ISO31000:2009リスクマネジメント解説と適用ガイド』(日本規格協会、2010年)。

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