2025.06.25 仕事術
第31回 どうする議長①
元所沢市議会議員 木田 弥
先日、SNSを開いたら、10年前の思い出という項目で、議長就任時に議長室で撮影した写真がいきなり表示され、一瞬ぎょっとしました。
この連載では、主に1期目の、どちらかといえば、首長に対しては是々非々の立場に立つことを目指している議員の皆さんを念頭に、議会活動のこんなときどうする、をお伝えしてきました。さすがに1期目で議長になるという機会はそうそうないものと思われますので、今回のテーマは少し皆さんには縁遠い話になります。現に私が議長に選出されたのも、4期目の1年目のことでしたし、実際に一定程度議会活動の経験を積まずに議長になっても、議会運営はおぼつかないことでしょう。私も、10年以上の議会活動の経験があったからこそ、議長になって様々な制度等を提案でき、かつ実現にこぎ着けることができました。
何らかのはずみで、あるいは強いられて、1期生でありながら議長になることも場合によってはあるかもしれません。私の知っている事例では、ある小規模な市の議長に2期目のしかもいわゆる野党系の議員が選任されました。背景を探ると、その議員に対する嫌がらせのためにわざと選任したようです。そういう野蛮なケースも含めて、そうなったときのために、今回は私が議長になって進めたこと、そしてなぜそれを進めたかについて、現在でも議会で続けられていることを中心にお伝えしたいと思います。
議長の権限は想像以上
議長になって思い知らされたのは、誤解を恐れずにいえば、議会事務局は一義的には議長のために存在するという印象を抱いたことです。議員は日常的に事務局職員にいろいろとお世話になるわけですが、議員は事務局職員の上司ではありません。にもかかわらず、議員が勘違いをして威張り散らすケースもあります。あなたは私の上司ではないということをいちいち議員に伝えるのも面倒なので、事務局職員は仕方なく対応してくれていますが、議員には事務局職員に対する指揮命令権はないことを、この際しっかりと認識しておいてください。
似たような事例として、議員による行政調査権の権限の問題があります。議員個々には行政調査権はありません。行政調査権はあくまでも議会に与えられた権限であるにもかかわらず、あたかも議員個人にあると勘違いする事例です。
一方、議長には地方自治法104条(1)に基づく事務統理権、つまり指揮命令権が付与されています。ですから、もし事務局職員に議会活動に伴う定型的業務以外の業務をお願いする場合は、本来であれば議員が議長にお願いして実行してもらうというのが正式なルートです。
私が議長就任後に、事務局長に「この件について他市議会事例を調べておいてください」とお願いしたところ、たちどころに対応してくれました。その速さには本当に驚かされました。ヒラ議員時代には考えられなかったことです。これは私が偉いのではなく、法律の忠実な執行者たらんとする公務員の皆さんの基本的動作といってよいでしょう。1年でヒラ議員に戻った後は、当然、以前と同様のその他大勢議員の扱いとなりました。
議長の事務統理権も実態として人事評価権は付与されていないので、限界があると私は考えているのですが、本来的には職員の異動や評価の権限も有しているし、そのように議長が執行部に対して促すべきだという意見を持つ人もいます(2)。
事務統理権に加えて、議長の大きな権限の一つに、議事整理権に基づき議会の開会を宣告する権限があります。このことを形式的に捉えている人もいますが、私の場合、この権限を意識しながら議長職を務めていました。なぜなら、私が1期目のとき、所沢市議会では、議長選をめぐって定例会が流会したことがあったからです。このときは議長が議会を再開しなかったため、午前0時でその定例会が流会しました。この経験から、議長はことによれば定例会を流会させる権限があることを学んでいました。
実際に私が議長のとき、こういうことがありました。ある事案に対して、市長が不適切な発言をしました。その発言に対して動議が提案され、議会がいったん休憩に入りました。私からは、市長に対して、もし何らかの訂正ないしは陳謝の発言がないと開会できませんと伝えました。このときは市長が何らかの対応をしない場合、私としては再開を宣告せず、その定例会を流会させる覚悟を持って臨みました。当然ながら、もし流会させてしまうと、議長の責任が問われます。しかし、例えば、議長不信任決議案を採択しようとする場合、本会議を開会しなくてはいけません。その開会宣告も議長が権限を有するわけです。また、議長不信任決議には法的拘束力はありません。ですから、事実上議長を解任するということは極めて困難です。今回のケースでは、最終的には市長が謝罪に近い形で、発言に対して一定の訂正を行ったため、その後、議会は進行しました。