2024.11.11
第20回 通勤の途中で負傷したら労災の対象になるか
弁護士 中川洋子
通勤の途中で負傷したら労災の対象になるか。
「労働者の通勤による負傷、疾病、障害又は死亡」(以下「通勤災害」といいます)は労災の対象となり、労災保険による給付を受けることができます(労働者災害補償保険法(以下「労災法」といいます)7条1項3号)。
ただし、通勤災害として認められる「通勤」とは、就業に関し、①住居と就業の場所との往復、②就業の場所から他の就業の場所への移動、③①の往復に先行又は後続する住居間の移動のいずれかを合理的な経路及び方法により行うことを指し、業務の性質を有するものは除くとされています(労災法7条2項)。
このうち、「就業に関し」といえるためには、移動行為が業務に就くため又は業務を終えたことにより行われるものであることが必要です。したがって、終業後に懇親会等の会合に出席し、その後、帰宅途中に災害に遭った場合に「就業に関し」といえるかは、その懇親会等の性質(業務性の有無)を踏まえ、認定する必要が生じます。
また、「住居」とは、労働者が居住して日常生活の用に供している家屋等の場所で、本人の就業のための拠点となるところをいいます。就業の必要性があって、自宅とは別に就業の場所の近くにアパートを借り、早出や長時間の残業の場合に限ってそのアパートに泊まってそこから通勤する場合は、そのアパートも「住居」と認められます。
さらに、「就業の場所」とは、業務を開始し、又は終了する場所をいいます。本来の業務を行う場所のほか、物品を得意先に届けてその届け先から直接帰宅する場合の物品の届け先や取引先は「就業の場所」に当たります。
「合理的な経路及び方法」とは、移動の場合に、一般に労働者が用いると認められる経路及び手段等をいいます。これは、必ずしも最短ルートを意味するものではありません。例えば、共働きの労働者の夫婦の一方が、子どもを託児所等に預けるためにとる経路は、そのような立場にある労働者であれば、当然就業のためにとらざるを得ない経路であるため、「合理的な経路」に当たるとされます。
「合理的な経路及び方法」に関連して、通勤の途中で通勤の移動の合理的な経路をそれたり(逸脱)、合理的な経路上で通勤目的から離れた行為を行った(中断)場合には、原則として、その逸脱又は中断の間及びその後の移動は「通勤」とは認められません。
ただし逸脱及び中断が、「日常生活上必要な行為であつて厚生労働省令で定めるものをやむを得ない事由により行うための最小限度のもの」である場合には、逸脱又は中断から元の経路に復帰した時点から「通勤」として認められます(労災法7条3項)。
「日常生活上必要な行為」の具体的な事由としては、労働者災害補償保険法施行規則8条1号から5号において、次の五つの行為が挙げられています。
① 日用品の購入その他これに準ずる行為
② 職業訓練、学校教育法1条に規定する学校において行われる教育その他これらに準ずる教育訓練であって職業能力の開発向上に資するものを受ける行為
③ 選挙権の行使その他これに準ずる行為
④ 病院又は診療所において診察又は治療を受けることその他これに準ずる行為
⑤ 要介護状態にある配偶者(内縁関係を含む)、子、父母、孫、祖父母及び兄弟姉妹並びに配偶者(内縁関係を含む)の父母の介護(継続的に又は反復して行われるものに限る)
以上を踏まえると、一般に、対象になる事故、対象にならない可能性がある事故は以下のようなものが挙げられます。
(1)対象になる事故の例
① 駅に向かう途中で自動車にひかれた場合(ただし、自賠責との調整が必要です)
② 通勤途中で電車が急停止し転倒負傷した場合
③ 取引先の最寄駅の階段で転落した場合
④ 帰宅途中、スーパーに寄って買い物をした後、路上で滑って転倒した場合
(2)対象にならない可能性がある事故の例
① 正当な理由なく遠回り、寄り道して事故に遭った場合
② 業務終了後、職場の仲間との私的な宴会から帰宅する途中で事故に遭った場合
③ 日用品でない買い物(ゲーム機の購入等)をして通勤中に事故に遭った場合
なお、労災の対象となる可能性がある場合は、労働者から事業主に対し、災害に遭ったことを申し出てもらい、事業主から労働基準監督署長に申請することになります。
労災として認定されると、療養給付(療養補償給付)、休業給付(休業補償給付)、障害給付(障害補償給付)、また、死亡事故の場合は遺族給付(遺族補償給付)、遺族一時金(遺族補償一時金)、葬祭給付等、様々な給付を受けることができますが、支給項目や金額等、具体的内容は個別事案によりますので、所轄労基署に確認をしてください。