2024.08.26
第18回 塀の設置費を隣人に請求できるか
弁護士 尾畠弘典
塀の設置費を隣人に請求できるか。
隣人との間で費用負担に関する協議が調えば、協議に従って塀の設置費用を請求できる。協議が調わない場合は、塀の設置の実現と費用負担割合の決定のために訴訟提起が必要となる。判決においては、塀の設置費用は原則として折半となるが、法定外の材料を用いる場合や2メートルを超える塀を設置する場合は、これによって生ずる費用の増加部分は負担を求めることができない。なお、協議前や協議が調わない場合に無断で塀を設置することはできず、無断で設置した場合には隣人に費用の負担を求めることはできない。
1 囲障設置権
2棟の建物が別々の所有者に属し、その間に空地があるときは、各所有者は他の所有者と共同の費用で、その境界に囲障を設けることができる(民法225条1項)。これを囲障設置権という。
2 当事者の協議
かかる権利を行使するには、隣人との協議を行う必要がある。協議もなしに無断で塀を設けることはできない。
3 協議不調のとき
協議不調になったとしても、隣人に無断で塀を設置することはできず、塀の設置を実現するためには、訴訟提起が必要である。仮に隣人に無断で塀を設置した場合は、以下で説明する法定の費用負担部分も含め、一部たりとも費用の負担を求めることはできないと解される。
4 塀の材料及び高さ
協議不調の場合は、訴訟において裁判所が塀の材料及び高さ、費用の負担を決する。
塀は、板塀又は竹垣その他これらに類する材料のものであって、かつ、高さ2メートルのものでなければならない(民法225条2項)。従前、板塀又は竹垣のみが材料として規定されていたが、現代においてはこれらを材料とすると、かえって相当高価なものになる可能性があるため、平成16年の民法改正によって「その他これらに類する材料」が付加されるに至ったものである。コンクリートブロックなどがこれに当たるであろう。
5 費用の負担
各所有者は、他の所有者と共同の費用で、その境界に囲障を設けることができる(民法225条1項)。また、囲障の設置及び保存の費用は、相隣者が等しい割合で負担する(民法226条)。
ただし、相隣者の一方が板塀の設置を主張し、他方がより良い材料で塀を設置することを主張した場合は、材料の良いもので設置することになる。この場合は設置費用が増額することになるが、増加した分については、より良い材料での設置を主張した方の負担となる(民法227条)。したがって、例えばコンクリートブロックにすると10万円で設置できるが、高級な天然石材にすると50万円を要する場合、一方は10万円の2分の1の5万円を負担すればよく、残り45万円は天然石材を主張した方の負担になる。
また、高さについても同様で、2メートルを超える高さを主張したときは、増加した分は主張した方の負担になる(民法227条)。しかし、必要以上の高い塀を作ることを主張して、隣人の日照権を侵害するようなことはできない。
6 慣習の優先
以上に説明した民法上の原則と異なる慣習があるときは、その慣習に従う(民法228条)。
例えば、東西に数軒の建物が立ち並んでいる集落において、A建物の所有者がその東側に位置するα塀の設置にかかる費用全額を負担し、A建物の西側に位置するβ塀の設置にかかる費用全額はA建物の西隣に位置するB建物の所有者が負担する、といった慣習がある場合では、B建物の所有者は、その西側に位置するγ塀の設置にかかる費用の全部をB建物の西側に位置するC建物の所有者に請求することができよう。
7 裁判例
囲障の設置につき訴訟となるケースは少ない。囲障設置請求が認容された例として、東京地判平成23年7月15日判時2131号72頁D1-Law.com判例体系〔28180056〕及び東京地判平成31年1月23日D1-Law.com判例体系〔29052266〕がある。