2024.06.25
第15回 老朽化したアパートの耐震診断の結果をもって、アパートの賃貸借契約を解除することができるのか
弁護士 滝口大志
老朽化したアパートの耐震診断の結果をもって、アパートの賃貸借契約を解除することができるのか。
耐震診断の結果、地震の震動及び衝撃に対して倒壊し、又は崩壊する危険性の程度によっては、立退料を考慮の上、賃貸借契約が解除されることがある。
1 賃貸借契約の中途解約と「正当事由」
賃貸人が賃貸借契約を中途解約する場合には、賃貸人が賃借人に土地や建物からの立ち退きを求めることについて「正当事由」が必要である(借地借家法28条)。「正当事由」がなければ、賃貸人がした更新拒絶によって賃貸借契約を終了させる法的効果が生じることはない。
この「正当事由」については、借地借家法28条が、①賃貸人の建物使用を必要とする事情、②賃借人の建物使用を必要とする事情、③従前の経過、④建物の利用状況、⑤建物の現況、⑥立退料の申出を考慮して総合的に判断するものと定めている。
2 耐震診断の結果の意味
では、老朽化した建物の耐震診断の結果から、どのようなことが分かるのか。
客観的な指標として、「耐震診断義務付け対象建築物の耐震診断の結果の公表について(技術的助言)」(平成31年1月1日国住指3209号)がある。ここでは、震度6強から7に達する程度の大規模の地震に対する安全性の評価を「Ⅰ~Ⅲ」で区分するものとしている。
ただし、いずれの区分に該当する場合であっても、違法に建築されたものや、劣化が放置されたものでない限りは、震度5強程度の中規模地震に対しては損傷が生ずるおそれは少なく、倒壊するおそれはないものとされている。また、地震に対する安全性の評価がⅠ、Ⅱであっても、それをもって違反建築物とは扱われない。
3 耐震診断の結果と「正当事由」
裁判例によると、中途解約の「正当事由」の判断につき、上記①④⑤として建物老朽化や耐震診断の結果といった事情を挙げた上で、⑥の立退料の金額で調整するものが見受けられる。つまり、裁判例の傾向として、耐震診断の結果だけをもって直ちに立退料を考慮せずに正当事由が認められるものではないことに注意が必要である。
賃貸人の立場であれば、アパートの耐震診断の結果を主張するだけではなく、賃借人への立退料(例えば、営業補償)についても併せて考慮していく必要があるであろう。