2016.09.26 議会事務局
第16回 一歩進んだ決算審査
議会事務局実務研究会 大島俊也
自治体議員の皆様、こんにちは。第16回目の今回は、これから各議会で始まるであろう「決算審査」についてです。以前に本連載でも取り上げたテーマですが、今回はもう少し踏み込んで根本的な疑問点を取り上げたり、実態を紹介したりしてみたいと思います。
そもそも使ってしまったお金について議論する意味があるの?

入ったお金は決まっていますから、「もっと入ったようにしろ」といっても無理。使ったお金も、もう使ってしまった後に「これに使うな」といってもやはり無理。そんなこともあって、議員や職員の間でも決算より予算が重視される傾向にあります。予算委員長の方が決算委員長より格が上だと考える方もいるようです。
家庭のこづかいなら、「いくらもらえるか」が大事で、こづかいの使い道までとやかくいわれることはそうはないはずですが、自治体の予算は使い道まで決められています。終わったことだからこそ、しっかり議論・検証する必要があるわけです。不正支出や目に余る無駄遣いがあれば、関係者の責任が問われ、決算を認定しないことになります。認定はするけれど、黙って認めるわけにいかなければ付帯決議をすることになります。そこまでいかずとも、見えてきた反省点を執行機関と議会が共有することで、次の予算に反映させる建設的な議論につなげることができるでしょう。
決算全体を審査するなんて、分野が広すぎて困る……

常任委員会と違って、決算委員会が扱うのは全ての分野の決算です。そこで議員の専門性を生かすため、議会によっては「分割付託」や「分科会」などの方式をとっています。
「分割付託」とは、土木や教育などの性質ごとに決算を分けて、これらを担当する常任委員会にそれぞれ審査を付託することです。専門分野にたけている常任委員が審査できるように、昔からこの方法をとっている議会は少なくありません。しかしながら、議案不可分の原則に照らすと、これは間違った扱い方なので改めることをお勧めします。
「分科会」とは、手続上は議案を1つの委員会に付託しつつ、その委員会の中に専門分野ごとに設けた分科会で、決算の性質ごとに質疑をするというものです。決算委員を常任委員で構成すれば、議案不可分の原則に反せず専門分野ごとに質疑ができます。
ところで、各常任委員会の全委員、つまり、全議員で決算委員会を構成する議会では、全議員が決算委員会で質疑・採決をした後、同じく全議員が本会議で再度採決をすることになるので二度手間じゃないかという指摘もあります。委員会は議員数などが多い場合に能率的に処理するために設けるものですから、そもそも全議員で審査するなら本会議で行っても同じかもしれません。ただ、委員会では比較的自由に質疑や討論ができる一方、本会議は最終判断を下す場ということもあってほとんどの発言が通告制になっていることなど様々な制約があるので、本会議のみの審議ではやりにくいかもしれません。
資料要求をするときのコツは?

「資料要求をしていいの?」などの基本的な点は、本連載の第4回「決算審査の素朴な疑問」でお答えしたので、ここでは資料要求をするときの注意点を取り上げます。
第1はタイミング。早ければ早いほどよし。要求しても資料をすぐにもらえるとは限りません。思い立ったが吉日、欲しくなったら、できるだけ早く議会事務局や執行機関に相談しましょう。以前から関心があって要求するつもりでいる資料があれば、決算書が提出される前でも早めに予告しておけば、執行機関もそのつもりで準備していてくれます。
第2に誰が要求するか。「誰でも同じでしょ?」と思う方もいるかもしれませんが、全然違います。「いわゆる野党系の議員が1人で要求する」のと「委員会として委員全員で要求する」のとでは執行機関の態度の差は大きいもの。「出せる資料なら誰だろうと出すべき」なのは正論ですが、一部の批判的議員だけから要求されると執行機関は必要以上に身構えます。同じ議員の仲間を味方につけて、大人数で要求すれば、執行機関としても無下にはできません。ある議会では、委員会としての資料要求の件数が増えて怒った首長が、「こんなことにならないよう、うまくやるのが議会事務局の仕事だ」と口走ったこともあるそうです。もちろん、そんなことが議会事務局の仕事ではありません。