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2024.04.10

第11回 成年後見制度の仕組みは

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弁護士 瀬戸康宏

Q成年後見制度の仕組みは。

A

 人は原則として、自身の意思決定を前提に契約などの法律行為をして、サービスの提供を受けたりすることができる。もっとも、認知症や知的障害などの理由により判断能力が不十分な人々については、このような原則どおりでは、不当な契約を結ばされてしまう事態や自身に必要な福祉サービスなどの契約を結ぶことができない事態などが生じることがある。そのため、判断能力が不十分な人々に配慮をする必要がある。
 本人の自己決定権を尊重し、残存能力を活用しながら、判断能力が不十分な人を保護する制度が成年後見制度である。

1 成年後見制度の内容
 成年後見が開始されると、判断能力が不十分な本人が契約や支払など一定の法律上の行為を自分一人では確定的に有効にすることができなくなり、他方で、後見人などの保護者が選ばれ、本人が保護者の同意を得て行為をするか、保護者が本人の代わりに行為をすることとなる。
 成年後見開始後、本人だけではできない行為が保護者の関与なしに行われた場合、その行為は事後的に取り消すことが可能となる。このような権限を付与された上で保護者は、本人の身上監護と財産管理を行うことになる。成年後見制度には、任意後見制度と法定後見制度の2種類があり、法定後見には後見・保佐・補助の三つの類型がある。

(1)任意後見制度(契約による後見制度)
 本人が、判断能力低下に備えて、あらかじめ他人にその場合に代理できる範囲を定めた上で、代理を委ねておく制度である。任意後見は、本人の判断能力低下前に、保護者となる他人との間で公正証書による委任契約を締結しておく必要がある。
 任意後見は法定後見と異なり、本人の判断能力が不十分であっても、本人の行為は制限されない。本人は自由に契約を結ぶなどの行為をすることができるが、本人が不当な契約を結んでしまったとしても、任意後見人は取り消すことができない。この点で、本人の保護の程度は弱いが、これは本人の自己決定の尊重の結果となる。
 本人の自己決定の尊重のため、法定後見開始の申立てがされた場合でも、本人の利益のため特に必要があるときを除き、原則として任意後見が優先される。

(2)法定後見制度
 法定後見制度は、任意後見契約がない場合でも、本人保護のために法律により利用できる制度として定められている制度である。保護を受ける本人の有する判断能力の程度に応じて、後見、保佐、補助という三つの類型が用意されている。
 法定後見は、一定の者が家庭裁判所に申立てをすることによって開始する。申立てができる人としては、本人、配偶者、親、子、孫、兄弟姉妹、おじ、おば、甥(おい)、姪(めい)、いとこ、配偶者の親・子・兄弟姉妹などが挙げられる。一定の場合には、市町村長も申立てができる。

ア 後見
 一人では日常の買物すら満足にすることができなかったり、ごく日常的な事柄すら分からなくなったりしているなど、認知症など精神上の障害によって判断能力を欠くことが普通の状態である者が対象となるのが後見である。後見が開始されると、本人は、日用品の購入その他日常生活に関する行為を除き、自ら財産上の法律行為をすることができなくなる。他方で、成年後見人には包括的に財産行為を代理する権限が与えられるが、居住用不動産の処分など一定の制限を受けるものがある。

イ 保佐
 本人が日常的な買物程度は一人でできるが、不動産の売買等重要な財産取引を一人では適切にできないといったように、認知症など精神上の障害によって判断能力が著しく不十分である者が保佐の対象となる。保佐開始により、本人は、借金、不動産に関する取引といった財産上の重要な行為や一定の行為については、保佐人の同意を得て行わなければならない。

ウ 補助
 本人が重要な財産取引についても何とかできそうではあるものの、適切に行えるか不安がある場合など、本人の判断能力が不十分な者が補助の対象となる。補助開始と同時になされる別の審判によって、補助人に同意権や代理権が付与される。

2 利用例
 成年後見制度を活用する場合は、以下のような場合が想定される。

(1)財産管理の観点から

  • 身の回りの世話をする家族のいない知的障害者が、財産管理に困っている場合
  • 認知症高齢者の預貯金を親族が勝手に使ってしまう場合
  • 預貯金が少なく、不動産を売却して生活費に充てる必要があるが、本人による売却が困難な場合


(2)身上保護の観点から

  • 認知症の高齢者が福祉サービスの利用契約を必要とする場合
  • 知的障害者が、福祉サービスを利用しながら、施設に入所せずに在宅で暮らしていけるよう、援助が必要な場合


3 成年後見制度を利用する場合の注意点
 成年後見制度を利用する場合の注意点としては、以下のようなものがある。

  • 後見開始後は、本人の判断能力が回復しない限り、後見開始を取り消すことができない。
  • 申立時に後見人候補者を指名しても、必ずしもその者が後見人になるとは限らない。
  • 後見開始後は、成年後見人や保佐人、補助人といった保護者に報酬が発生する(なお、自治体によって報酬助成制度がある場合がある)。
  • 後見人はあくまでも本人の保護を第一の目的として行動する必要があるため、親族の意図しない結果が生じることがある(収入が少なく負債が多い場合など、家族の生活費を負担できないことがあるなど)。
  • 定期的に裁判所に報告をする必要が生じる。
  • 後見の開始により、権利制限が生じる。例えば、国家公務員・地方公務員等の就業資格や医師・弁護士等の専門資格の喪失、株式会社の取締役になれないといった資格の制限、遺言ができる場合の制限などがある。


4 問合せ先

  • 成年後見制度全般及び法定後見……市区町村、家庭裁判所
  • 任意後見契約……公証役場

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