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2024.01.12

【PR】江藤俊昭『自治を担う「フォーラム」としての議会─政策実現のための質問・質疑─』(イマジン出版、2023年12月)刊行に当たって

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 江藤俊昭(大正大学公共政策学科教授

 筆者は、新たな著書を昨年末に上梓しました。いつものように、住民自治を進める住民、議員、議会事務局職員、首長等に熱きメッセージを送ったつもりです。本著の帯には、「縮小時代に住民・議会・首長の総力戦が始まる」、「バージョンアップした議会は熟議する『フォーラム』」、「多様な議論をまき起こす それが『フォーラム』」と的確なキャッチが掲載されています。
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 主タイトルとサブタイトルは、出版社の意向(原則論)で逆転しました。筆者は、議員や住民が特に関心を持つ質問・質疑をメインにした方が広範な人に手にとってもらえるのではないか(要するに、売れるのではないか)と思い、質問・質疑を主タイトルにしました。もちろん、質問・質疑であっても、従来のハウツー本とは異なることはいうまでもありません。それは、質問・質疑の発想や実践の相違を提示しているからです。それを超えて、そうした発想が登場する議会の哲学とその実践に裏付けられたものを提示したかったからです。それが「フォーラムとしての議会」です。しかし、出版社にすれば、原則論をタイトルにすべきだと(一般書の最初の上梓は、このイマジン出版でした(『自治を担う議会改革』2006年(増補版2007年))……。まさに、新たな議会像の提示の必要性からのものでしょう。
 筆者は、約20年前に『協働型議会の構想』を上梓しました(信山社、2004年)。これは、閉鎖的で討議もせず追認機関となっている従来の議会に対して、住民と歩み議員間討議も重視し、その上で首長等と積極的に政策競争する議会像を提示しました。今では当然の議会像に対して、当時は「空想」という評価もいただきました。今日、実践はこの議論を大きく超えています。個々の議員の力が活性化することは前提ですが、機関(塊)として作動することの重要性を強調しました。この20年以上の議会改革の転換は、「議会からの政策サイクル」に結実しますが、それを理論化したものが「フォーラムとしての議会」です。

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 質問といえば、「政策に取り組み、政策に生きるべき議員にとって、一般質問は、最もはなやかで意義のある発言の場であり、また、住民からも重大な関心と期待を持たれる大事な議員活動の場である」という位置付けが広がっています(全国町村議会議長会『議員必携〈第12改訂新版〉』学陽書房、2023年)。おそらく、多くの議員はこうした発想で質問に臨んでいることでしょう。
 住民のため、地域のために活動する矜持(きょうじ)を保った議員が、この質問に注力しています。地域課題を政治・行政の場に登場させる意義があるからです。それに磨きをかける手法を教示する著書や研修はにぎやかです。
 ただし、質問力(質疑力を含めています)は、議員の専売特許ではありません。議員の質問力向上だけではなく住民自治を進めるには、住民のそれも必要です。現状を理解し問題点を解決する監視・政策提言を行う力は両者に不可欠だということです(今は、中学校や高校でもアクティブラーニングが流布しています)。
 権力を担うのが議員です。公金の使い方を決める、人権にかかわる条例を決める、といった重要な権限を持っています。地域経営の方向を提起する質問は、地域経営にとって第一級の位置を占めます。その議会の質問・質疑を意識してほしいからです。もちろん、本著では技術的なことも提案しています(質問の作成、検証等)。

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 出版の動機の一つは、議会改革の進展と質問重視の議員活動とがつながらないのではないかという違和感からです。質問は、地域課題を政治・行政の場に登場させる重要な機能があるものの、従来の質問重視の議員活動は、機関として作動させる新たな議会活動を侵食するからです。それは、二つの違和感です。
 第1の違和感。従来の議会では、議員は、自分だけの手柄としチーム議会とはならない、時には首長等にすり寄り監視機能を軽視する、口利きと連動する、地域全体の政策とは連動しない、といった傾向に拍車がかかることです。
 もう一つの違和感。質問だけを重視する議員活動に対するものです。質問とともに、質疑、そして討議、討論、表決(議決)といった議案審査にかかわる一連の事項を重視しています。発言という視点からは、質疑(そして討論)の重要性の強調です。まさに、議会からの政策サイクル=フォーラムとしての議会は、質問とともに、議案審査を重視し、「住民福祉の向上」を実現することになります。

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 こうした視点からは、一般質問が「最もはなやか」という評価には疑問を提出し、議案審査の重要性(質疑後の議員間討議、重要議案にかかわる参考人招致、討論の充実(少なくとも同一議案に対して3回は可能とする)など)を強調することになります。とはいえ、質問は、地域からの重要な提言の一つです。そして、質問は、日本の地方自治制度による首長の強力さから必要な道具です。質問には、地域で眠っている、表に現れない内容も含まれます。それを政策の中に位置付ける必要があります。質問力と議会力の相乗効果を目指すことです。今日、質問を議会の質問として位置付ける手法も充実してきました。
 〈質問前の準備段階〉同類のテーマを調整し重層的な質問にする重複質問調整制度(茅ヶ崎市議会)、一般質問について新人議員の研修を議会として行う(取手市議会「議員研修会模擬一般質問」)、定例会前に一般質問を全議員で確認し効果的な質問にブラッシュアップする一般質問検討会議(北海道別海町議会)、委員会提言に効果がない場合に委員会所属議員が本会議で角度を変えて重層的な質問を行う戦略的質問(いなべ市議会)など。また、市民フリースピーチで出た意見を全員協議会を経て一般質問とすること(犬山市議会)、委員会代表質問(可児市議会など)も加えてもよいでしょう。
 〈質問後〉全議員による反省会での質問のブラッシュアップ(会津若松市議会など)、議会だより等で追跡調査(山梨県昭和町議会など)、「検討する」との答弁の経過を首長側に報告させる制度(長野県飯綱町議会)など。また、重要なテーマを所管事務調査の対象にすることも加えてもよいでしょう。
 質問を機関としての議会の質問とする手法は豊富化しています。これは、議員力アップが議会力アップに連動するが、同時に逆の要素もあることの確認です。

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 従来は議会を分断する要素が強い質問を機関としての議会の強化に活用し、逆にそのことで質問力の向上につなげることを提案しています。議員力と議会力の相乗効果です。議会改革の実践から大いなるヒントを与えていただいています。
 住民自治を進める住民、議員、議会事務局職員、首長等による議会改革の進展への努力、そしてそれを筆者の議会論の充実に活用させていただいていることに大いに感謝しています。同時に、それをさらに進めるために、本著の一読を強く勧めます。
 


【本著の流れ】

 第1部の「質問・質疑をチーム議会に活用する」と第2部の「質問・質疑を充実させるフォーラムとしての議会」といった2部構成である。
 第1部は、そのタイトルにあるように、議会の監視力・政策提言力を活性化させる質問・質疑の役割や手法を確認する。
 第1章では、質問の役割の変化、個別の議員にとって重要なだけではなく、議会全体にとっても重要な役割を担うという新たな質問像の息吹を感じてもらうこと、質問と質疑の区分をするなど基礎的な知識の確認、そして質問や質疑は真空ではなく政治的磁場で行われるがゆえにその場の意味を確認している。まさに、本著全体の問題意識、そして新たな質問・質疑を考える上での基礎の確認である。
 第2章では、個々の議員の質問を政策資源として位置付け、その質問を議会の質問として位置付けることで質問の実効性を高める意義を強調し、その手法を提案する。これによって議会力もアップする。もちろん、個々の議員の努力は必要だ。そこで成果が出る手法の開発は必要であり、その論点も明示している。それとともに、議会として質問を活かす手法(質問内容を所管事務調査の課題とする、通告制の活用等)や、議会としての質問(正確には委員会代表質問)についても紹介している。主軸は、議会からの政策サイクルの中に質問を位置付ける発想である。
 第3章では、質問とともに(正確にはそれ以上に)重要な議案審査の際の質疑の重要性を確認すること、そして議案審査を充実させる手法を開発している。議会からの政策サイクルとの連結である。
 第4章では、質問・質疑の充実のために本著を通底している議会からの政策サイクルの中にそれらを位置付けること、逆に充実した質問・質疑によって議会からの政策サイクルはより活性化することを提案している。それらを踏まえて議会力アップと議員力アップの相乗効果を目指している。その際、これらの相乗効果の起点として選挙の際のローカル・マニフェストを活用することを提示している。
 第2部の「質問・質疑を充実させるフォーラムとしての議会」は、第1部の議会力と議員力の相乗効果(質問・質疑の充実のために議会からの政策サイクルの中にそれらを位置付けること、逆に充実した質問・質疑によって議会からの政策サイクルはより活性化すること)をより豊富化するために、議員と議会の役割を再確認するために配置した。
 第5章では、第1部と第2部をつなげるために、質問力・質疑力と議会改革の到達点である議会からの政策サイクル=フォーラムとしての議会の関連を探っている。その際、イコールで結んだ、議会からの政策サイクルは時間軸を、フォーラムとしての議会は空間軸を強調していることでは相違はあるが、住民、議員、首長等の三者による協働空間としていることでは同じである。そのイメージを確認する章である。
 第6章では、議会の存在意義であるがゆえに、フォーラムとしての議会にとっても存在意義である多様性の重要性を確認するとともに、その多様性を活かす手法を模索している。住民─議会(議員)関係、議場外における住民、議員、首長等による三者間関係、議場内における住民、議員、首長等による三者間関係、それぞれの実際を紹介している。
 第7章では、議会本体の多様性を模索している。女性、障がい者、若者等の多様性などを想定している。そして、多様性を創り出すための選挙についても検討している。



 

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