2023.12.11 仕事術
第12回 どうする定数①
元所沢市議会議員 木田 弥
定数の改正を議会内だけの議論で決めてよいのか?
前回は、地方議員の報酬について検討しました。結局、報酬を改定するためには、執行部の附属機関である特別職等報酬審議会の設置が条例で規定されている地方公共団体では、審議会を開催して審議を経ることが原則であり、執行部も巻き込んだ大がかりな手続が必要になります。実際は首長の給与削減を公約した場合などは、そのプロセスがスキップされてしまうこともあるようですが。
一方で定数を変更する場合は、執行部を巻き込まなくても、定数条例の改正で変更することができます。所沢市議会も過去には、それほどの大がかりな手続なしに、定数条例を改正してきました。
しかし、平成21年の議会基本条例制定以後は、議員報酬や定数の改正に当たっては、「明確な改正理由を付して提出」し、かつ「市民等の意見を聴取するため、公聴会制度及び参考人制度等を十分に活用する」ことと規定しました。その結果、議員報酬改定に当たっては、執行部の附属機関である特別職等報酬審議会で審議するのではなく、議会で附属機関を設置し、そこで報酬を審議することも選択肢の一つとなりました。また、定数についても同様に、附属機関を設置して審議することができます。審議会を設置すれば、審議会の答申を「明確な改正理由」としてみなすことができます。
そのためには、議会基本条例若しくは単独の条例でもよいのですが、議会に附属機関を置けることを条例に定めて、附属機関設置の法的な根拠を用意しなくてはなりません。この点については前回説明不足だったので、少し整理します。
地方自治法(以下「自治法」といいます)138条の4第3項では「普通地方公共団体は、法律又は条例の定めるところにより、執行機関の附属機関として自治紛争処理委員、審査会、審議会、調査会その他の調停、審査、諮問又は調査のための機関を置くことができる」、202条の3第1項では「普通地方公共団体の執行機関の附属機関は、法律若しくはこれに基く政令又は条例の定めるところにより、その担任する事項について調停、審査、審議又は調査等を行う機関」とされており、あくまでも執行機関の附属機関のみが規定されています。
また、地方公営企業法14条にも「地方公営企業を経営する地方公共団体に、管理者の権限に属する事務を処理させるため、条例で必要な組織を設ける」と規定されています。
一方、自治法では議会の附属機関条項については明確に定義されていません。「そもそも議会も執行部の附属機関だろ」という口さがない意見もあるようです。
所沢市議会基本条例制定時にも、執行部に原案を意見照会した際に、附属機関設置条項について疑義が呈されました。この点については、専門的知見の活用制度を使って法政大学の廣瀬克哉教授から市議会に対し、意見をいただきました(https://www.city.tokorozawa.saitama.jp/shigikai/gikaikaikaku/senmontekichiken/zisseki/sgikai20180302150853512.files/tiken.pdf)。
その中で廣瀬教授からは、「2009年2月現在、三重県議会では、実際に附属機関を設置すべく準備中であり、あらためて総務省行政課などと法解釈上の確認を行っているが、総務省行政課の見解は、地方自治法は地方議会に附属機関を置くことを想定しておらず、議会基本条例にもとづく附属機関が議会に設置されたとしても、地方自治法に根拠を有しない機関となる(条例のみを根拠とする機関となる)とのことである。地方自治法の想定の枠外の機関であることから、その委員の身分や報酬についても検討課題は残っているが、条例の根拠があれば、附属機関の設置それ自体が違法であるということにはならないという確認はなされたものということができる」(三重県議会事務局からの聴き取り(2009年2月13日)による)とのアドバイスをいただきました。
一方、平成24年1月の京都市会の市会改革推進委員会資料には、「議会に附属機関を設置することについては、総務省は、『議会は、合議制の議事機関であり、その構成員である議員自ら多様な意見を議会に反映させる責務を負っているものであり、その機能を附属機関に委ねるのは適当ではない。』等の理由により否定的な見解を示している」と記されています。ただし、この総務省見解がどこから引用されたものかは明示されていません。引用元の記載がない以上、何とも判断のしようがありません(https://www2.city.kyoto.lg.jp/shikai/shikaikaikaku/data/shi2401-07.pdf)。
同資料では、「他の政令市の議会においては、川崎市、さいたま市、新潟市、名古屋市及び広島市の議会基本条例において、議会が学識経験を有する者等で構成する調査機関を設置することができることが規定されている。三重県議会においては、議会基本条例において、議会に附属機関又は調査機関を設置することができることを規定しており、実際に設置事例もある」と紹介されています。結局、京都市でも京都市会基本条例が平成26年に制定され、23条に「市会は、議会活動に関し必要があると認めるときは、学識経験を有する者等で構成する調査機関その他の機関を設置することができる」と附属機関の設置を盛り込んでいます。
京都市会では、市会基本条例の制定に先立つ平成25年に、「議員定数・議員報酬という、正に議員の処遇に関することについて、議員だけで議論するのではなく、専門的な知見を活用することが検討された。学識者等で構成する第三者機関を設置することが検討されたが、合意には至らず、3名の学識者に対して、京都市会の議員定数・議員報酬の在り方について、意見書の提出を求めた」とのことです(京都市会市会改革推進委員会「議員定数及び議員報酬についての報告書(案)」(平成26年)(https://www2.city.kyoto.lg.jp/shikai/img/shikaikaikaku/iinkai/h25/shi-2601-02.pdf))。
専門的知見の活用は、平成18年の法改正により新たに追加された自治法100条の2において地方議会でも制度として活用可能になりました。
これは全くの私見ですが、この条文が追加されたことにより、専門的知見を得るための専門的附属機関の設置については、事実上容認されたものと考えています。つまり、複数人の有識者を指名し、その有識者が同一テーマで会合を持った場合、これすなわち形式的には附属機関とみなせるからです。
いずれにせよ、附属機関設置が条例で根拠付けられている地方議会においては、議員報酬や定数見直しに当たっては、当然ながら附属機関の設置も検討すべきでしょう。