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2023.11.27 仕事術

第11回 どうする議員報酬──議員報酬の引き下げを公約にして当選した新人議員も

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元所沢市議会議員 木田 弥

 人事院勧告に基づく国会議員の報酬引き上げに批判が相次いでいます。
 論調としては、国民は物価高で苦しんでいるにもかかわらず、引き上げるのはけしからんということのようです。心情的には理解できますが、仮に引き上げなかったとして、節減できる費用は、首相で月6,000円の引き上げですから、その節減した費用でできることは限られています。
 地方議会議員報酬についても、市民からは、常に厳しい視線が注がれています。特に都市部などでは、比較的議員報酬も高いことから、引き上げなどとんでもないという意見が支配的といってよいでしょう。一方で町村部では、議員のなり手不足の問題が顕在化していることもあり、議員報酬を引き上げた町村議会も増えているようです。
 新人の候補者の一部には、高すぎる議員報酬を引き下げることを公約にすることも散見されます。
 私の知り合いの議員も、議員報酬引き下げを公約に掲げて当選。しかし、今期の選挙では、引き下げについては一切触れずに見事に再選を果たしました。別の議員は議員報酬引き下げを公約にしたことから、引き下げ分相当額を市外に寄附しています(市内だと公職選挙法の寄附行為に該当するため)。
 また、任期が終わりに近づくと、議員報酬や定数の引き下げを声高に叫ぶ現職議員も登場します。そうした議員は、あらかじめ否決される、というより、議論の俎上(そじょう)にも載らないことを見越して提案していると思われます。ある議員は、定数削減について、議会報告などで、自分は定数削減を目指して頑張ったが周りの議員の理解が得られなかったといって、自己の正当性を主張していました。

議会基本条例で、報酬や定数の改正議案提出をルール化

 こうしたことが何回か続いたことから、所沢市議会基本条例では、「第10章 議員の政治倫理、身分及び待遇」で、以下のとおり定めることとしました。
 

(議員定数)
第30条 議員の定数は、所沢市議会議員定数条例(平成13年条例第56号。次項において「議員定数条例」という。)に定めるところによる。
2 委員会又は議員は、議員定数条例の改正議案を提出しようとするときは、議員定数の基準等明確な改正理由を付して提出するものとする。
3 前項の提出に当たっては、市民等の意見を聴取するため、公聴会制度及び参考人制度等を十分に活用するものとする。
(議員報酬)
第31条 議員の議員報酬は、所沢市議会の議員の議員報酬及び費用弁償等に関する条例(昭和43年条例第13号。次項において「議員報酬等条例」という。)に定めるところによる。
2 委員会又は議員は、議員報酬等条例の改正議案を提出しようとするときは、明確な改正理由を付して提出するものとする。
3 前項の提出に当たっては、市民等の意見を聴取するため、公聴会制度及び参考人制度等を十分に活用するものとする。

 この両条文の要点は、2項の「明確な改正理由を付〔す〕」、3項の「公聴会制度及び参考人制度等を十分に活用する」になります。いずれも解釈の余地が広い文言ですが、2項に基づいて改正議案を提案しようとするならば、一定程度の理論的な裏付けが必要になります。
 例えば、報酬の場合であれば、全国町村議会議長会の平成31年「町村議会議員の議員報酬等のあり方最終報告」(町村議会議員の議員報酬等のあり方検討委員会)では、議員報酬の決め方として、「原価方式、比較方式(類似団体比較)、収益方式(成果重視)」などを列記しています。さらに、令和4年「議員報酬・政務活動費の充実に向けた論点と手続き~住民福祉の向上を実現する町村議会のための条件整備~」には、「活動内容を踏まえた原価⽅式」として、
議会・議員活動量(時間・日数)÷⾸⻑の活動量(時間・日数)×⾸⻑給料(円)=
議員報酬(円)
を提案しています。

 明確な改正理由としては、こうした既存提案に準拠した改正理由を付すことが求められます。活動内容を踏まえた原価⽅式に基づき算出するためには、個人の議員の対応では限界がありますので、何らかの議会内での会議体(特別委員会など)を形成して、調査と議論を進めることが必要となります。
 この会議体の設立から運営にも、これまでの経験からいって、最低1年半程度の期間を要しますし、公聴会制度及び参考人制度等を十分に活用するためには、準備期間として1年以上が必要になりますので、議会基本条例を尊重して実際に報酬の引き下げを進めるならば、改選直後から動き出さないと不可能という建付けになっています。
 このように、議員選挙前に駆け込みで議員報酬等条例を提案することが事実上不可能なように条文を整備しました。
 議会において会議体などを整備しなくても、「特別職報酬等審議会」を利用する方法もあるのではないか、という考えもあるようです。この点については、吉田利宏氏の「議会コンシェルジュ第36回 議会が特別職報酬等審議会を利用することは妥当か」(議員NAVI 2018年2月13日号)をお読みいただければ分かるのですが、基本的には、この審議会は首長の諮問機関、つまり附属機関であり、原則として議会の利用を想定していません。私は、首長の附属機関に審議を委ねることについては二元代表制の観点からも反対です。
 また、所沢市議会基本条例27条では、「附属機関の設置」について「議会は、審査、諮問又は調査のため必要があると認めるときは、別に条例で定めるところにより、附属機関を設置することができる」と規定していますので、議会基本条例で附属機関設置を規定している議会においては、議員報酬審議会を設けるというのも一つの方法として考えられます。
 いずれにせよ、報酬や定数について見直すことはやぶさかではありませんが、報酬や定数の引き下げを得票活動の手段として利用することは、議会に対する、そして有権者に対する冒瀆(ぼうとく)であると私は考えています。一部の有権者は、議会及び議員は単なるコストとしか捉えていないのかもしれませんが、有権者にとって議員は、行政に対し意義申立てをする権利を代表する存在であり、便益であるという理解を持っていただかなくてはなりませんし、そう思ってもらえるように議員も活動しなくてはなりません。私の場合は、ムダな、あるいは不当な財政支出を見つけ出して指摘することで、報酬分が賄えるように意識して議員活動をしてきました。

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