2023.09.11 仕事術
第7回 どうする議会事務局②
元所沢市議会議員 木田 弥
今回は、執行部の核心的利益に直接手をかけたために、議会事務局OBの職員を中心とした執行部から激しい抵抗を受けた話です。
以前より私は事あるごとに、議員は職員から「嫌われても舐(な)められるな」とお伝えしています(江藤俊昭=新川達郎編著『自治体議員が知っておくべき政策財務の基礎知識』(第一法規、2022年)239頁)。
連載第5回「どうする議会事務局①」でもお伝えしたように、議会と執行部は制度的に二元対立の関係にあり、基本的に職員に「好かれて舐められない」ということはあり得ません。同書の該当箇所を引用します。
「議員は、本質的に、職員に好かれることは決してない。それは、人格の問題というより、法制度上、執行部と議会は対立する(機関対立主義、権力分立の基本)ようにできているからである」。そして、「議員としての本来の機能を果たせば果たすほど、職員からは嫌われるはずなのだ」。
以前、ある先輩議員から、「議員と執行部は、まちを良くしたいという同じ目的を共有する同志なのだから、対立せずに仲良くするべきだ」と説教されたことがあります。
そういった側面があることは否定しませんが、それは、条例や予算を否決したり修正したりする議員に対して、その議員の提案は、どんないいことでも採用しないという考え方の首長が答弁する議会であれば、成り立たない考え方です。
残念ながら、究極的には、議会事務局職員も執行部の職員である以上、議会の活動が執行部の核心的利益を阻害(「予算の修正」)する場合、徹底的に議会の立場に立ってくれる一部の議会事務局職員を除き、議員に対して塩対応なのも現実です。
こうした状況への解決策としては、国会のように、議会事務局が独自に職員を採用するという方法もあります。かつては我が市議会でも、議会事務局職員としての採用を行っていたそうです。連載第4回で紹介した議長選の抗争で、最終的に議長になったE議員も、もともとは議会事務局採用の職員だったそうです。ところが、途中から制度が変わって、議会事務局採用の職員も執行部に一元化したそうです。そのE議員によれば、やはり、議会事務局だけで異動がないと、政策の内容についての理解がおぼつかないこと、原理的には議会事務局独自の職員採用が二元代表制の考え方からすれば正しいが、そうすると、執行部側からの議会活動のコントロールが全く利かなくなる、ということも背景としてあったようです。
10年ぶりの予算修正は大荒れの展開に
では、市の核心的利益である予算の修正に挑んだ状況について説明しましょう。
平成29年3月定例会において、本予算(平成29年度予算)に先立ち、平成28年度一般会計補正予算第5号が提出されました。この補正予算は、「会計検査院の会計実地検査等で、埼玉県ふるさと雇用再生基金を活用した事業に補助対象でない経費があったことが判明したため補助金の一部を、県を通じ国に返還するもの」(平成22、23年度「観光魅力PR事業」)でした。さらに解説すると、市は、ふるさと雇用再生基金を活用して、我が市の体育館にホームを置いていたあるプロスポーツチーム(以下「株式会社SB」といいます)のスタッフの一部の人件費(賞与)を、その基金を活用して補助していました。しかし、その雇用者の人件費の支給規定が変更され、そのことに市の職員が気づかず、変更後は、支給分を超えて支給されていたことが、会計検査によって指摘されました。執行部の説明では、「委託初年度の平成21年度には問題なく補助の対象となっておりましたが、その後、質疑集の改訂によりまして、賞与等の諸手当につきましては、委託先の社内規程において明記されているものに限定をされました。しかし、市はそのことを認識していなかったため、平成22年度の株式会社SBとの委託契約時に、特別賃金について社内規程への明記が必要である旨を伝えておらず、平成22年度、平成23年度も平成21年度と同様に、社内規程に特別賃金についての記載のないまま、補助対象として業務委託料を実施していた」ということです。
会計検査院は、市に対して、過支給分を、県を通じて国庫に返納することを求め、同補助金返還金予算案247万5,000千円が議会に上程されました。
株式会社SBは、市の指示どおりの人件費を支給していた善意の第三者でした。そこで市としては、「責任は市にあるので、株式会社SBに対して求償できない。補正予算で県に対する返還金の補正予算を計上するので認めていただきたい」というのです。
論点はいくつかありますが、私は、「市の指示であったとはいえ、やはり筋としては、株式会社SBから返還してもらうしかない」という意見でした。先日、ある市でも超過支給に対しての返還請求が行われましたが、いくら市のミスであったとはいえ、市民の税金である以上、返還してもらうのが原則です。
また、株式会社SBに対して誤った指示をした職員の責任が厳しく問われなかった点にも、問題があります。
これに対して執行部は、「委託先の瑕疵(かし)はなく、市の法務担当に相談を行いましたところ、委託先に返還を求めることはできないものと判断をいたしました」と回答。
こうした回答に納得できなかった、私を含む数人の議員が予算修正案を提出。内容は、「埼玉県ふるさと雇用再生基金市町村事業費補助金返還金を削除し、補正額を0円とする。これに伴い、歳入、財政調整基金繰入金の補正額12億4,078万7,000円から247万5,000円を減額し12億3,831万2,000円とする。よって、歳入歳出の総額はそれぞれ1,039億2,087万9,000円とする」と提案。修正案は賛成多数で可決。また修正案以外の部分についても賛成多数で可決となったことに現在はなっています。会議録もそのように修正されています。しかしこの会議録は、実際に起こったことが記録されていません。後で訂正することとなったからです。