2023.06.12 仕事術
第3回 どうする議長選①
元所沢市議会議員 木田 弥
今回は、4月当選の新人議員にとって初めての議長選、誰に入れたらいいのか。私のおすすめは最後にお伝えします。ですから最後まで読んでくださいね。その前に、そもそも議会の人事をどう考えたらよいのかを整理しておきましょう。
人事(議長選)をひとごとと考えず、積極的に関わろう
さて、4月の統一地方選挙で当選した新人議員も会派ないしは1人会派が確定し、私の友人の新人議員などは、当選時の高揚感も消え失せ、会派や議会そのものにすでに幻滅を感じているようです。あるいは、別の友人のように、会派全員が新人議員の場合、議会のルールや仕組みがよく分からないようです。
でも、ここからが本当の仕事の始まりです。こんな議会はおかしい、自分がルールを変えてやるという志の高い方もいるかもしれませんが、まず今の議会のルールや仕組みを徹底的に理解して、その上で次のステップに進みましょう。一見不条理に見える議会のルールや仕組みも、大抵は、なるべく議員の仕事を合理化しようという動機で生まれた場合が多いようですが、中には常識では考えられないような様々な議員や首長の行動を抑止するために制定された場合もあるからです。ルールや仕組みを学ぶには、本を読んで学ぶだけではなく、これまでは当たり前というしきたりや慣習に、多少ひんしゅくを買っても異議申立てをしてみることです。そういう場合、先輩議員から「昔からこうやっている」と叱られる場合もあれば、議会事務局などから「こういう理由でこうなっている」と説明され、「なるほど、そういうことか」と納得する場合もあります。
前回もお話ししたように、せっかく用意された仕組みも使いこなせていないのが、今の地方議会の現実です。特に、予算修正、公聴人制度、通年議会、常設型住民投票や常設型附属機関の設置など、議会自らが首長に忖度(そんたく)してか、あるいは面倒なことはしたくないからか、自分たちの権限を縛って、積極的に仕組みを活用しない事例が多く見られます。改革を唱えるのは、それらの仕組みを使いこなそうと努力してからにしてくださいね。いきなり定数削減に進む前にやることはたくさんありますよ。
何かを変えようとするときに大事なのが、人事です。いくら正論を唱えたところで、議会で多数派を握っていなければ、議会のルールはピクリとも動きません。ですから、多数派を握るための最も大事な議長選の戦い方がとても重要です。今は、新人議員は戦い方というより選び方にとどまりますが、今後は、議長選に積極的に絡むようにすることが、議会の改革を進める上では重要です。私は、1期目の3年目から、議長選に積極的に絡んできました。その結果、6月定例会が事実上流れてしまう(開会日初日に流会)という、とんでもない事態も巻き起こしました。その話は次回以降に譲るとしても、結果的にその戦いをきっかけに議会改革を進めることができるようになったと理解しています。人事をひとごとのように捉える議員もいますが、人事を自分ごととすることが重要であると私は考えて行動してきました。まぁ、人事が好きだったということも否定はしませんが。
議長の権限は理論的には絶大
皆さんの議会では議長選挙はもう終わりましたか?
4月の統一地方選挙で新議員が選出された議会では、臨時議会が開催されて、新議長及び副議長、関連する人事がすべて決定済みかと思います。統一地方選挙で改選を迎えなかった議会で、かつ、毎年度若しくは2年ごとに議長が「習わし」として交代する議会では、おそらく6月議会定例会の冒頭で議長選挙が行われ、新議長の下で6月定例会が開催されることでしょう。統一地方選挙があった議会の場合、初議会の開催までに、議会に議長不在の期間が発生します。そのため、すぐさま臨時議会を開いて、議長を確定します。もし危急の事態が発生した場合、議会を開催できないと、団体としての意思決定ができないからです。実際は、首長が専決処分で取り急ぎの決定はできますが、新議員が確定していて招集可能な状態であれば、すぐさま議会を開会できる状態にしておくことが議会としての最低限の義務です。これができていない議会はもう、自らの存在を否定しているといってよいでしょう。
私の友人や知人の幾人かも、この4月の統一地方選挙後の議会で、議長に選出されました。ある友人の場合、その議会は、原則、地方自治法(以下「自治法」という)の定めのとおり、任期中、つまり4年間は、ずっと同じ人が議長が務めます。一方、我が市議会の場合、任期は原則4年ですが、「習わし」として、1年たったら一身上の都合で辞職を申し出ることになっています。ですから、4年間で最低4人の議長が誕生します。
2年で交代という議会もあるようです。自治法どおり4年で1人の議長が望ましいという学者も多いようです。確かに、改革マインドにあふれた議長であれば、改革を確かなものとするためには重要ですが、そうではない人が議長になり、その状態が4年間固定化されるとなると、ほぼその4年間は、議会改革の動きが封じられると考えてよいでしょう。こうしたメリット・デメリットを考慮すると、2年で交代という「習わし」が理想かもしれません。
「そんなに議長の存在というのは大きいのか」と、疑問に思われる新人議員もいるかもしれません。しかし、自分が議長に就任して肌身に染みてよく理解できたのは、議会事務局(最近では議会局と称する地方議会もあるようです)は、一義的には議長のための機関である、ということです。そのことは、すでに述べたように、自治法上の議会の権限は議会にあり、議員にはないこと、その議会の長は議長であることに由来します。
議長の権限は理論的には絶大です。議会の招集権は基本的には首長にありますが、実際に開会のベルを鳴らすのは、議長です。議長の許可なくして、議会は開会されません。この権限を応用(私から見れば悪用)し、議長が開会のベルを鳴らさなかったのが、先ほど述べた6月定例会の事実上の流会です。
私も、議長在任時に一度だけ、この伝家の宝刀を抜きたくなったことがありました。ある議案の答弁に対して、市長の不用意な発言が議会で問題になったため、市長に訂正を求めたものです。市長もなかなか譲らず、私もこのままでは本会議を再開できない。会期中は一切開会せずに議会を流会させる覚悟を決めました。議長が議会を流会させる方法は幾つかあります。一つの方法は、議会開会に当たって会期日程を決定しますが、最終日までに議会が開会されず付託された議案に対して議決がなされない、となれば、自然流会となります。あとは、いったん開会するものの、会期日程の決定前にいったん休憩してその日をやり過ごせば、そのまま流会です。
このケースの場合は、市長が折れて訂正発言をしたため、議会は無事すべての議案の審議を終了して閉会しました。万が一、議会を再開せず流会させると、議長の責任問題になりますが、そもそも議長不信任を議決するための議会も議長が開会しますから、議長がそれも拒否した場合、議会は完全に機能停止します。
ちなみにこれもあえて申し上げると、副議長というのは、閉会中の議員と同様、権限はほとんどありません。最大の任務は議長に事故があった場合、一時的に議長の代理を務めるということです。しかし、議長は、閉会中も議長です。