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2015.12.25 仕事術

第10回 視察のための質問ポイント(6)~視察事例における費用を把握する~

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一般財団法人地域開発研究所 牧瀬稔

 今回も視察の際に確認するとよいと思われる質問を例示していく。またオープン・クエスチョンとクローズド・クエスチョンの違いを指摘する。そして最後に、地方創生について筆者の思うことも(蛇足ではあるが)言及しておきたい。

視察時に確認したい10の質問

【問7】現在、注目している自治体(取組)を教えていただけませんか?  この質問文に近い内容はすでに言及している。それは「(視察事例を実施するに当たり)参考にした取組は何ですか?」(問4)であった。「参考にした取組は何ですか?」という質問は、視察事例を創出する際の過程の把握が目的であった。
 視察事例が何もないところから、突然アイデアとして湧いてきたということは少ないだろう。担当者(視察先の自治体)は他自治体等から得た何かしらのヒントを持っており、そのヒントを組み合わせる過程を通して、政策を形成してきたということが多い。先の「参考にした取組は何ですか?」(問4)は、その一連の過程を把握することが目的であった。
 視察は結果や成果に加え、経緯や過程(=プロセス)も把握することが大切である。ところが視察に行くと、その結果や成果しか見ないことが多い。この結果や成果だけを移転するのはなかなか難しい現状がある。そこで、視察事例が誕生したプロセスを把握することも大事である。プロセスは、比較的、自分たちの自治体にも移転しやすい。
 今回例示している質問「現在、注目している自治体(取組)を教えていただけませんか?」は、担当者(視察先の自治体)の考え方や思想を盗み取ることを意図している。視察を通して、先進的な視察事例を創出した際の考え方や思想を把握する。そのことにより先進自治体の発想に近づくことが大切である。
 視察を通して、視察事例の取組や、その背後にある視察先の自治体の思想を『ベスト・プラクティス』として参考にするといい。『ベスト・プラクティス』とは経営学の用語である。その意味は「経営活動における最も優れていると考えられる業務プロセスや業務推進の方法などを指し、そして最も転用しやすいノウハウ」と定義できる。簡単にいってしまうと「模倣しやすい良いノウハウ」である。視察により得られた知見を読者なりにベスト・プラクティスとしてまとめていくことが大事である。
 ちなみに、経済学には『ガーシェンクロンの仮説』(後発性の利益)という概念がある。その意味は「後発国は先進国の開発した新しい技術を導入しながら工業化を推進するため、工業化のプロセスは短期化され、経済成長率も先進国を上回る高さを示す」という考えである。つまり経済発展を開始する後発国は、すでに経済発展した模範となる国(日本や韓国等)を参考にするため、容易にしかも短期間で経済発展が可能となるという事実である。さらに後発国にとっては、先進国が経済発展を進める上で経験した悪い点は回避し、良い点のみを模倣するため、短期間で経済発展が可能といわれている。
 視察事例をベスト・プラクティスとして把握することにより、いち早く先進事例に近づくことが可能となる。一方で視察した自治体が経験した失敗は反面教師として捉え、同じ轍(てつ)を踏まないことが大切である。そうすることにより、効率的に先進自治体へと変貌していく。
 なお、もし読者の自治体が先進自治体になりたいのならば、先進事例をまねしただけでは意味がない。先進事例の模倣では、先進自治体を追い越すことはできないからである。先進事例を視察し、得られた知見や思想を移転する際に「プラスアルファ」していかないと、真の意味で先進自治体には変貌しないし、自治体間競争の中においては埋没してしまう可能性がある。

【問8】その取組(施策・事業)にかかった費用を教えていただけませんか?  政策(施策や事業を含む)には、必ず費用が発生する。そこで人件費を除いた政策の費用も把握しておく必要がある。また全体の費用だけではなく、政策対象者の1人当たりにかかった費用も確認しておくとよいだろう。
 この質問に関連して、行政資源という観点から確認しておくとよい。行政資源とは「行政活動を進める上で必要とされる要素」である。一般的にはヒト・モノ・カネ・情報の4つを指すことが多い。どれだけ良質で、かつ、より多くの行政資源を政策に投入できるかにより、政策の実効性が左右される。そして政策の実効性を高めることは、自治体間競争を勝ち抜くひとつの秘けつとなる。
 行政資源における「ヒト」とは、政策を進めるに当たり必要とした人員体制である。「モノ」とは、民間企業においては設備などを意味する。対象とする視察の内容(例えばハード的な施設など)によっては、モノもしっかりと把握する必要がある。そして「カネ」が今回の「その取組にかかった費用を教えていただけませんか?」になる。「情報」は、すでに例示した「参考にした取組は何ですか?」や「現在、注目している自治体(取組)を教えていただけませんか?」になる。
 行政資源から質問項目を組み立てることが重要であるし、特に費用はしっかりと把握しておくことが求められる。

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