2015.10.26 仕事術
第8回 視察のための質問ポイント(4)~視察をする立場により、得られる知見は異なる~
一般財団法人地域開発研究所 牧瀬稔
前回に続いて、視察時に視察先に質問するべき項目を紹介したい。
本連載の中で、何度も繰り返し言及しているが、再度記しておきたいのは、質問項目は事前に視察先に送付するのがマナーであるということである。どんなに遅くとも視察の1週間前には、質問項目を送付しておくべきであろう。
事前に質問項目を送付しないで、視察時にいきなり質問内容を提示する事例は少なくないようだ。本連載をきっかけとして、視察を受け入れた職員(団体)からトンデモ視察の情報が筆者のもとに届くようになった(トンデモ視察とは「とんでもない視察」であり、「もってのほかの視察」という意味である)。
筆者に寄せられるトンデモ視察情報の中には、相変わらず視察当日に質問項目が提示されるケースがある(もちろん少数である)。また筆者自身も、依然として同様な経験をしている。そこで毎回くどくて申し訳ないのだが、「視察を実施する前には、必ず視察先に質問事項を送付すべき」ということをこれまでも書いてきた(が、そういう行為をする人は本連載を読んでいないと思われる)。
視察時に確認したい10の質問
以下では、視察時に確認するべき質問事項を具体的に紹介していく。今回は2つの質問を例示する。前回で問1と問2を紹介したため、今回は問3からとなる。
【問3】過去、視察に来た自治体(名)はどちらになりますか? 読者の中には、視察先に対して「過去に視察に来た自治体(名)を聞いても意味がない」と思われる人がいるかもしれない。しかし、筆者は必ずこの質問事項を尋ねるようにしている。この質問は、視察事例の移転を考えるときにとても役立つからである。
例えば、シティプロモーションの成功事例を視察したときに、その成功事例を視察に来た自治体として、A市やB市、C町があったことを視察先から教えてもらったとする(ちなみに「成功事例」と「先進事例」が異なることは、すでに言及したとおりである)。次に筆者が確認するのは、それぞれの自治体において「視察した成果がどのように活用されているか」という事実である。具体的には、ホームページから情報を収集したり、議会でのやりとりを会議録からチェックしている(議員視察の場合は、視察事例が議会でやりとりされる傾向が強い)。
もしA市やB市、C町がシティプロモーションの視察をした後、実際に自分の自治体で展開している場合は「移転可能性が高い」ことを意味する。つまり、成功事例の再現性が高いと判断できる。
一方で、シティプロモーションを視察した後、A市やB市、C町において何も動きが見られないときは「移転可能性が低い」ということを意味している。すなわち再現性は低いと判断されるため、視察により得られた成果は活用できないかもしれない。
つまり、視察した自治体のその後を確認することにより、最終的に視察事例の「移転可能性が高いか低いか」の判断が可能となる。
ただし注意しなければならないのは、「A市やB市、C町において全く動きが見られない」=「移転可能性が低い」と決めるのは早急であるということだ。視察事例の移転を諦める必要はない。視察しているのに、その視察結果が体現されていない場合は(移転されていないときは)、何かしら理由があるからである。その理由をしっかりと把握し、移転できない理由を改善することにより、視察事例の移転可能性は高まっていく。そこで筆者は、場合によっては、A市やB市、C町にも伺い、「視察した事例のその後」を尋ねている。そうすることにより、成功事例の移転可能性を少しでも高めるようにしている(時間的・費用的制約から視察が難しい場合は、電話でのヒアリングやメールでの照会でもよいと思う)。
なお、言い方に語弊があるかもしれないが、そもそも移転可能性を考えずに視察に行く事例も残念ながらある。つまり視察ではなく、実態は単なる旅行だったりする(ウェブ上には「旅行視察」という言葉が氾濫している。この「旅行視察」の「旅行」の2文字に筆者は違和感を持っている)。旅行の場合は、基本的に「移転可能性を考えていることは少ない」ため、視察結果が反映されることはない。そのため移転可能性は当然低くなるだろう。
いずれにしても、視察項目に「過去、視察に来た自治体(名)はどちらになりますか?」と聞き、視察事例のその後も把握することにより、自分の自治体への移転可能性を高めることが可能となる。移転可能性を考えるならば、視察は現地に伺って終了というわけではないのである。
【問4】参考にした取組は何ですか? 筆者は視察を実施する場合は、必ず「(視察事例を創出するときに)参考にした取組は何ですか?」という質問も確認している。先進事例であり、かつ成功事例といわれている政策であっても、アイデアが突然湧いてできたということはまれである。何かしらのヒントがあり、そのヒントを組み合わせる中から、政策(視察事例)が生まれることが多い。よく聞くのは、既存事業の組合せから登場した政策や、民間企業の取組を自治体に移転した政策である。そこで、視察事例の原点を確認する意味を込めて「参考にした取組は何ですか?」ということを確認している。
その結果、回答として参考にした図書や取組や事例などが視察先より例示される。いくつか例示されたのならば、可能な限り具体的な内容に当たっていくといいだろう。また「D企業の取組を参考にして、政策を思いついた」という回答を得たのならば、そのD企業にも視察に行った方がいい(繰り返すが、視察に行く時間がない等の制約がある場合は、電話によるヒアリングでもよい)。
この質問をすることで、視察事例が誕生した背景や経緯、視察事例を形成した担当者(職員)の思考経路も把握できるのである。この一連の過程は自分の自治体において新しい政策を創出するのに、とても役立ってくるだろう。
ちなみに極めて少ないケースであるが、全くオリジナルの視察事例もある(筆者は全くオリジナルの事例は極めて少ないと考えている。しかし視察先が「何も参考にせず、自力で生み出しました」という場合は、「そうだろう」と思うようにしている)。その場合は、担当者のどのような思考経路から視察事例が登場したかを把握するようにしている。
また、それに関連して、担当者はどの本を参考にしたのか、どの情報から事業が思いついたのかなど、視察事例が政策として形成されるまでの担当者の思考経路を把握するように心がけている(次回以降で言及するが、視察事例を創出するまでの担当者の思考過程に加え、そのアイデアを実現するまでの庁内根回し等も把握する必要がある)。
次回も、視察で具体的に使える質問事項を紹介していく。下記では、視察をする際の基本的な視点を述べる。