地方自治と議会の今をつかむ、明日につながる

議員NAVI:議員のためのウェブマガジン

『議員NAVI』とは?

検索

2015.04.27 選挙

議会選挙の低競争率

LINEで送る

東京大学大学院法学政治学研究科/公共政策大学院教授(都市行政学・自治体行政学) 金井利之

はじめに

 2015年4月は、4年ごとの統一地方選挙である。前回において取り上げたのは低投票率であるが、近年問題となっているのは、それに限らない。候補者不足による低競争率あるいは無投票当選である。2015年4月3日に、統一地方選挙前半戦の41道府県議選と17政令指定都市議選が告示された。新聞報道等によれば、道府県議選では、全選挙区の33.4%の321選挙区で無投票が確定し、総定数の21.9%に当たる501人が無投票当選した。政令指定都市議選では、160選挙区中の無投票は2選挙区にとどまったものの、定数1,022に対して候補者は1,477人にとどまっている。
 皮肉なことであるが、あまりに候補者が少なくて無投票になれば、投票がなされないので、実際の選挙執行による「低投票率」という「汚名」は着なくてもすむ。しかし、「低投票率」を投票率=0%として計算すれば、平均投票率はもっと低く算出されることになる。あるいは、無投票阻止のために泡沫(ほうまつ)候補が立候補して実際に投票に持ち込めば、やはり、実質的な競争率も低くなるであろうし、結果が見えているのだから投票率も低くなろう。その意味では、低投票率と低競争率は、かなり近い関係にあると考えられる。そこで、第2回目として、低競争率について、検討してみたい。

低競争率のメリット

 一般に、低競争は問題であると思われる。しかし、立候補する人間からすれば、無投票当選がありがたいだろう。試験でも無試験で合格させてもらえれば、それに越したことはないのと同じである。無投票ではなくとも、低競争率であれば、機械的にいえば、当選確率は高まる(少数激戦ということは実際にはありうるが)。あるいは、実質的な競争のない「無風」選挙で、優位に選挙戦を過ごしたいのは、人情であろう。
 また、納税者・有権者あるいは民間経営感覚としてみれば、無投票になれば、投開票という意味での手間と費用が削減できるから、効率的であり、行政改革に資するといえよう。実際、民間企業では、株主総会で投票が盛り上がるなどという手間と費用のかかることは普通は回避されているのであって、だからこそ「大塚家具」の株主総会(2015年3月27日)が話題をさらったのである。シャンシャン大会が民間経営感覚である。この点からすれば、事実上の無風選挙による信任投票が、今流行の民間経営感覚にふさわしい選挙といえよう。

低競争率のデメリット

 しかし、自治体の選挙に関する通論では、こうした民間経営感覚はあまり有力ではない。
 第1に、低競争率とは、立候補者が少ないということであり、要は、議員・首長になりたいという意欲を持つ人間が少ないということである。したがって、政治家になる人は、やる気のない「デモシカ政治家」の集まりということである。有為な人材は、社会的に魅力のある仕事を目指して、日夜奮闘するので、そのような仕事の倍率は高い(1)。逆に、有為な人材が応募してこないと、倍率は低くなる。つまり、低競争率は、議員・首長になろうという人材の有為性が低いことを暗示しているから、一般住民的には問題になり得るのである。
 第2に、当選した政治家には、選挙戦における能力向上の機会が失われる。数少ないポストをめぐって競争するから人間は切磋琢磨(せっさたくま)をする。しばしば、選挙を経た人の経験談では、選挙を経るのと経ないのでは、住民の本音の把握や人間性の大きさの点で異なり、選挙を戦うと一皮むけるともいわれる。頭の中で「このように世の中をよくしたい」等独りよがりの思いは、選挙民から1票を得るための説得と喧伝(けんでん)と情理という真摯なコミュニケーションによって、相当に是正されるのである。選挙戦がなければ、潜在的には同じ能力を持った候補者でも、その潜在能力を伸ばすことはできない(2)
 第3に、選挙とは、自治体の政策について有権者を交えて論議をする、非常に有力な機会である。政治家は、選挙直前だけ街頭演説や活動報告をする、としばしば揶揄(やゆ)される。人間とは所詮そういうものであり、テスト直前のみ一夜漬けの勉強をし、夏休み最終日になって夏休みの宿題をするようなものである。それゆえにこそ、選挙の洗礼を受けさせることで、政治家に「真面目」に政策を有権者に訴えかけさせるように、インセンティブを与えるのである。ところが、低競争率では、政治家は「真面目」に行動しない。つまり、真摯な政策論議が起きない。どうせ満点がもらえる簡単なテストであれば、一夜漬けの勉強すらしない。
 第4に、低競争率では実質的な競争がないため、有権者は選挙によって代表者を選別することによって民意の傾向を示すことができなくなる。無投票であれば、民意は示しようがない。低競争率、例えば、定数10に対して候補者が11人であれば、立候補の段階で議会の勢力はほとんど決まっている。したがって、民意はほとんど示しようがない。なお、形式的には低競争率でなくとも、例えば、定数1に対して候補者が2人であっても、一方が圧倒的に有力であり、他方が泡沫候補であれば、無風選挙として投票前から当選者は決まっている。

この記事の著者

議員 NAVI

今日は何の日?

2024年10 9

北朝鮮が初の核実験(平成18年)

式辞あいさつに役立つ 出来事カレンダーはログイン後

議員NAVIお申込み

コンデス案内ページ

Q&Aでわかる 公職選挙法との付き合い方 好評発売中!

〔第3次改訂版〕地方選挙実践マニュアル 好評発売中!

自治体議員活動総覧

全国地方自治体リンク47

ページTOPへ戻る