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2015.03.23 仕事術

第1回 「視察」は、政策づくりに貢献するためにある!

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「おざなり政策」は視察に原因あり?

 良い政策づくりのためには、正しい「視察」は欠かせない。しかし「いい加減な視察」が少なくない。いい加減な視察により開発された政策は「おざなり政策」となる。おざなり政策は、住民の福祉の増進にほとんど寄与しない。むしろ住民の福祉を減退させてしまう可能性がある。  
 視察がいい加減になってしまうのは、視察を体系的に学ぶことがないからである。今日では「視察学」という分野が存在しない(「視察」を取り扱った文献もほとんどない)。そこで本連載は、筆者の経験から視察学を構築する意欲的な取組である。  
 視察の意味を辞書で確認しておくと、「現地・現場に行き、その実際のようすを見極めること」とある。また「実情を知るために実地を見ること」とも定義されている。ところが、これらの定義に当たる視察を真摯に実行している事例は少ないかもしれない。つまり「名ばかり視察」が多い。名ばかりとは「実質が伴わないこと」を意味する。それでは実質は何かというと、「観光」や「旅行」である。あるいは「政務活動費の使用の目的化」かもしれない。もちろん観光や旅行の過程から、政策づくりのヒントは得られるかもしれない。しかし、観光や旅行が中心の視察は、政策開発に貢献しないだろう。  
 過去、筆者は政策づくりのために多くの視察を実施してきた(その中には反省すべき視察もある)。同時に多数の視察を受け入れてきた(その中には閉口した視察もある)。これらの経験から、本連載は政策づくりに役立つ視察のポイントを言及していきたい。

トンデモ視察にならないために

 過去、筆者は面白い視察を受け入れた。その事例を紹介したい。

●トンデモ事例1 視察の1日前にアポイントメント
 議員から視察のアポイントメントがあった。筆者が希望日を聞くと、なんと「明日が希望」と元気よく言ってきた(「明日が希望」に驚き、筆者の頭が床に着くくらいのけぞってしまった)。さらに時間も指定している。正直「なんて自分勝手な……」と思った。しかし視察を断ると、依頼してきた議員のブログで何を書かれるか分からない。以前、視察を断ったことにより、筆者のぷち批判をブログに書かれた経験がある。それがトラウマとなっている(筆者の心はズタズタに引き裂かれてしまった)。そこで、筆者の指定する場所に来ていただくことを条件に、視察に対応することにした。当日議員を待っていると、待ち合わせ時間を大幅に超過し悪びれる様子もなくやってきた。なお、アポイントメントなしで視察に来た事例も、過去10回ほど経験している。

●トンデモ事例2 視察時間15分!
 こんな視察もあった。視察時間は正味15分程度であり、筆者との写真を撮影して終了した。15分間ではまともな意見交換もできず、何を聞きにきたのか筆者には分からなかった。後日、視察に来た議員のブログには「(筆者と)有意義な意見交換をしました!」と掲載されていた(そこには筆者と意見交換している議員の「俺、視察しているぞ!」を全面に出した写真も載っている)。筆者は有意義な意見交換をした記憶は全くない。あきれて物も言えないとはこのことである(ただし、後日この議員からは視察のお礼メールがしっかりと届いていた)。

●トンデモ事例3 事前の質問事項送付なし
 事前に質問事項が送られてくることなく当日視察に臨んだら、議員の口から質問が出てくる、出てくる。たぶん30問くらいは質問されたのではなかろうか。しっかりとした回答を得るためには、事前に質問事項を送付する必要はあるだろう(といっておいて、事前に30問も質問事項が送られてきたら困ってしまう)。

●トンデモ事例4 視察前に、結論が決まっている
 そのほか、結論ありきの視察も意外に多い。こういった視察の対応には苦慮してしまう。すでに議員の脳裏には提案する政策案が決まっており、その自分の結論を、視察している最中に筆者から話してもらおうと誘導する事例である。これでは視察の意味はないだろう。

●トンデモ事例5 視察中の居眠り、私語は要注意
 さらに、比較的議員の視察に多いのだが、視察中に寝てしまったり、議員同士で話している場合も少なくない。さらに、視察に来た議員が筆者に質問することなく、自分の自慢など一方的に話しすぎる場合も意外に多い。視察に来た議員が9割ほど話し、対応した筆者が1割程度しか話さなかったこともある。

 どうも視察の意味を分かっていない人が多いようである。

「名ばかり視察」にならないために

 上記の事例に共通することは、視察を「目的」と捉えている点である。ここに間違いがある。視察はあくまでも「手段」である。では「視察の目的」は何かというと、視察で得た知見を生かして「政策をつくること」にある。この手段と目的を履き違えている視察が多い。  
 本連載は視察を中心的に言及するが、視察以前にしっかりとした政策研究が求められる。しっかりとした政策研究をしていれば、「名ばかり視察」になることはない。  
 本連載における視察は、「政策づくりに貢献するために、現地・現場に行き、あるいは当事者の話を得ることにより、実情・実態を把握すること」と定義する。重要なことは、政策づくりに貢献するように視察を組み立てて実施することである。次回以降では、視察の具体的なノウハウを紹介していく。

視察力アップのための5つのポイント
(1)アポイントメントは、遅くとも2週間前までには先方にしよう
(2)中身のある視察をするためにも、視察時間はある程度確保しよう
(3)視察先に質問したいことは、事前に集約し、先方に伝えよう
(4)視察は、まっさらな頭と目で行おう
(5)視察先をリスペクトしよう(居眠り・私語など厳禁)

筆者が勧める視察先

 しっかりとした政策研究を実施するために、次の団体は視察に行く価値がある。いずれも政策研究に特化した「自治体シンクタンク」を設置している。  
 ・戸田市政策秘書室(戸田市政策研究所)  
 ・春日部市政策課(かすかべ未来研究所)  
 ・鎌倉市政策創造課

推薦する図書

 視察学に近い領域として「取材学」がある。これから調査や取材を実施しようとする方については、その基礎的要素が学べる図書である。  
 ・加藤秀俊『取材学―探求の技法』中公新書(1975年)

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