2021.02.25 政務活動費
第17回 議員の責任
慶應義塾大学大学院法務研究科客員教授 川﨑政司
1 議員が負う責任
議員は、議会の構成員として、その運営・活動に参加する権利と義務を有しており、とりわけ、議案の審議や調査においては、出席し、発言し、表決するのが、その基本的な責務である。その際には、住民の多様な意見を議会の場に表出し調整しつつ、総合的な観点から何が妥当なのかを判断し意思を示すことになるが、最終的には、多数決により議会の意思が定まることになる。
議会の議決・決定等の行為については、それが違法である場合には無効となりうるだけでなく、それによって損害が生じた場合にはその国家賠償も問題となりうる。議員についても議決責任といったこともいわれるが、基本的に、賠償責任を負うことがあるのは自治体であって、その議決に与(くみ)した議員がその表決行為について法的責任を問われることはない。議員が問われうるのは、政治的責任である。
議員は、その行為や活動について、政治的責任を負う。政治的責任は、主に政治的結果に対する行為者の責任(responsibility)を意味するものであり、道義的責任とは区別されるものであるが、どのような責任をとるかは行為者の判断に委ねられ、基本的には、議会や住民の批判を受けるにとどまり、最終的には、選挙における住民の判断に委ねられることになる。ただし、自治体議会議員の場合には、議会において懲罰の対象となったり、有権者から解職請求が行われたりすることもある。また、責任をとって自ら議員としての職を辞するということもあるが、議員の辞職には議会の許可(閉会中は議長の許可)が必要である。議会は、辞職を許可するのが一般的であるものの、懲罰の対象となる場合などには、すぐには辞職を認めず、除名を含む懲罰の処分を行うこともある。
また、政治が負う責任としては、適切な説明を行う義務としての説明責任(accountability)がある。従来においては、政治が負う責任としてresponsibilityとaccountabilityの二つが意識的に区別されることはなかったが、説明責任は、民主性や透明性の確保の観点から、政策決定や行政のあり方などについて国民や住民に負う責任概念として重視されるようになっている。議員は、その行為・活動について説明するだけでなく、その責任が問題とされる場合には、しっかりと弁明・説明する責務を負うことになる。
他方、議員は、議会活動や議員活動における行為について、法的責任(liability)を問われることもある。自治体議会の議員については、議会で行った発言・表決について法的責任を問われないとする免責特権は認められておらず(1)、場合によってはその発言についても法的責任が問題となる可能性もないわけではない。
ここでは、議員の責任として、議会内外の議員としての行為に関して問われうる民事責任と刑事責任について裁判例等も踏まえつつ概観するとともに、議会による懲罰等と有権者による解職などについても、次回において検討することとしたい。