2019.08.27 選挙
選挙ポスター作成費の公費請求額が過大であったことが判明した場合候補者はその差額を市に返還することができるか/実務と理論
高木馬白 総務省消防庁消防・救急課
1 はじめに
公職選挙法(昭和25年法律100号。以下「法」という)は、金のかからない選挙を実現するとともに、候補者間の選挙運動の機会均等を図る手段として、国又は地方公共団体が選挙運動に要する費用を負担して候補者の選挙運動を行い若しくは選挙を行うに当たり便宜を供与し、又は候補者の選挙運動の費用を負担する、いわゆる選挙公営制度を採用している。
本問においては、選挙公営制度をとる市長選挙において、候補者が選挙運動に使用したポスターの作成費について、市から作成業者に代金が支払われた後に請求額に過誤があった(公費負担対象ではない費用が含まれていた場合など)ことが判明した場合に、過大であった金額を当該候補者が市に返還することは公職選挙法上問題ないかについて検討を行う。
なお、文中意見にわたる部分は、筆者の私見であることをあらかじめ申し添える。
2 選挙公営制度
(1)選挙公営制度
選挙公営の種類には、①選挙管理委員会が全て行うものとして、投票記載所の氏名等掲示、②内容は候補者等が提供するものの実施は選挙管理委員会が行うものとして、ポスター掲示場の設置及び選挙公報の発行、③選挙管理委員会が便宜を提供するものの実施は候補者等が行うものとして、演説会における公営施設の使用、④選挙管理委員会は実施には直接関与しないが国や地方公共団体が経費の負担を行うものとして、選挙運動用自動車の使用、選挙運動ビラ、ポスターの作成、選挙運動用通常はがきの交付、新聞広告、政見放送等があり、選挙の種類によって公営制度の有無が異なっているところである。
(2)ポスターの作成に係る選挙公営
選挙運動用ポスターの作成に係る選挙公営について、法143条14項は、「衆議院(小選挙区選出)議員又は参議院議員の選挙においては、公職の候補者は、政令で定めるところにより、政令で定める額の範囲内で」同条1項5号の選挙運動用ポスターを無料で作成することができると定めている。「政令で定める額」については、公職選挙法施行令(昭和25年政令89号。以下「令」という)110条の4第2項及び第3項に定めがあり、衆議院小選挙区選出議員又は参議院選挙区選出議員の選挙の場合は、令110条の4第2項1号に定める金額にポスターの作成枚数(当該作成枚数が当該選挙区におけるポスター掲示場
の数に2を乗じて得た数を超える場合には、当該2を乗じて得た数)を乗じて得た金額、参議院比例代表選出議員の選挙の場合は、令110条の4第2項2号に定める金額にポスターの作成枚数(当該作成枚数が7万枚を超える場合には、7万枚)を乗じて得た金額とされている。なお、「政令で定める額」を超過した場合、当該超過分については公費負担の対象とはならず、候補者自身が作成業者に支払わなければならない。
作成費の支払については、令及び公職選挙法施行規則(昭和25年総理府令13号)に基づき、候補者等が作成業者において、必要な諸手続をした後、衆議院小選挙区選出議員又は参議院選挙区選出議員の選挙にあっては都道府県が、参議院比例代表選出議員の選挙にあっては国が、当該ポスターの作成業者からの請求に基づき、当該作成業者に支払うこととされている。
また、地方選挙については、法143条15項において、都道府県の議会の議員及び長の選挙については都道府県が、市の議会の議員及び長の選挙については市が、それぞれ、衆議院小選挙区選出議員及び参議院選挙区選出議員の選挙の規定に準じて、条例で定めるところにより、公職の候補者の選挙運動用ポスターの作成について無料とすることができると定めている。なお、「条例の定めるところにより」とあるとおり、条例による任意制公営であり、公費の負担の有無や単価・上限額については、各都道府県及び各市の条例の制定状況により異なるものであるが、単価・上限額は令で定める額を上限とし、当該地方公共団体における実情を総合的に勘案して定めるものとされている。