2018.12.25 小規模自治体
議会参画員 ──『町村議会のあり方に関する研究会報告書』について(その10)──
東京大学大学院法学政治学研究科/公共政策大学院教授(都市行政学・自治体行政学) 金井利之
はじめに
総務省に設置された「町村議会のあり方に関する研究会」の報告書(以下『報告書』という)の実体的な評釈を続けている。前々回(その8)から、『報告書』の中核である「Ⅲ 持続可能な議会の実現」を論じ始めた。そして前回からは、『報告書』の主たる提言であり、また、論争的な「2 新しい2つの議会のあり方」の検討を始めた。
しかし、2つの議会にリンクする固有の措置はなく、パッケージとして提示する意味はないことが明らかになった。むしろ、個々の措置についてそのあり方を検討することが求められているのである。そこで、今回からは「3 新たに検討すべき仕組み」として、個々の措置を検討してみよう。今回は「(1)住民参画の仕組み」として議会参画員を検討しよう。
集中専門型と住民参画の必要性
集中専門型は少人数であるから、「多様な民意を反映させる機能を別に確保する必要がある」(16頁)という。また、「長とともに市町村の運営に責任を持つにふさわしい資質を兼ね備えた議員が複数選出されるためには、幅広い層が議会の議論に触れ、議員としての活動に繋がる経験を積むことが重要である」(16頁)ともいう。もっとも、こうした要請が、多数参画型に必要ないのかといえば、大いに疑問である。多数参画型としても、さらに広い住民参画を否定する理由はないからである。
もっとも、集中専門型のような、議員数が特に少数の市町村に、住民参画を義務付けるというパッケージはあり得よう。多数参画型では住民参画の導入は任意であっても、少人数議会では義務化するわけである。とはいえ、どの程度の少数の場合には住民参画が必須になるのかは不明である。そもそも、『報告書』が提案する2つの議会のあり方から、集中専門型を選択するのは、当該自治体の任意である。集中専門型を選択しないままに定数削減をするときには、実は住民参画を義務付けることはできない提言である。ならば、結局、集中専門型であろうと、多数参画型であろうと、導入したい自治体が任意で住民参画を導入するだけの話である。集中専門型に住民参画をリンクする意味がない。
さらにいえば、住民参画の必要性は、議員の絶対数というよりは、住民/議員の総体比率の問題ではないかとも考えられる。すでに述べたように、小規模市町村では、住民人口に占める議員の相対比率は大きい。中大規模市は、議員数は多いが、議員1人当たりの住民人口数は大きく、むしろ、こちらの方こそ住民参画が必要なのである。その意味では、住民参画を義務付けるべきは、小規模市町村の少人数議会=集中専門型ではなく、中大規模市のように思われる。つまり、住民参画の必要性は一般的にはいえるものの、特にその必要性が高いのはどこかを考えると、筋違いの提言のように思われる。
議会参画員
『報告書』の提言する住民参画の仕組みが、「議会参画員」である。条例/予算その他の重要議案について議員とともに議論する(議決権はない)。職務を行う日ごとに費用弁償を支給する。そして、くじその他の作為が加わらない方法などにより選定する。ただし、一定の辞退要件などを設定するという。『報告書』でも明示的に言及されているように、裁判員のイメージである。それゆえ、裁判官と裁判員の人数比と似たように、議会参画員の人数も議員定数の2倍から4倍という(17頁)。
議会参画員は住民参画なのであるから、自発性に依拠した公募制にするのが筋のように思われる。しかし、『報告書』によれば、公募制では「人選に偏りが生じ」るとして、否定的である。そこで、裁判員のような抽選制になるわけである。ということは、抽選による強制制(徴用制)であり、「赤紙」である。それゆえ、住民の反発は不可避であって、一定の辞退事由を設けるという。とはいえ、議論に参画する担い手を、実効的に義務付けることができるぐらいならば、担い手不足などは、論理的には発生しようがないかもしれない。
やる気のない住民が抽選で議会参画員になったとすれば、実際には、議会に参加することはほとんど期待できないだろう。もし、そのような事態が望ましくないのであれば、上記の正当な辞退事由のない住民には、議会への参画を義務付けるしかなくなる。まさに、裁判員のイメージであれば、義務付けということが想定されているのであろう。しかし、そのような窮屈な負担を、小規模市町村の住民に課すことは、健全とは思えない。やる気のない住民を強制的に出席させたとしても、意味のある住民参画になるはずがない。
さらに、裁判員のイメージからか、「議会参画員の役割にかんがみ、一定の規律を設ける」(17頁)という。裁判員は、公平誠実に職務を行う義務、品位保持義務、出頭義務などが課されるという。議会参画員も、こうした付加義務が課されるならば、ますます実質的な担い手の空洞化をもたらしかねない。その意味では、『報告書』の議会参画員の提言は、ほとんど無意味なものとなろう。
おわりに
こうして考えると、結局、各自治体で試みられている大量住民参画の工夫を、各地の実情に合わせて実践するしかないと思われる。議会に限定しても、議会モニターや議会サポーターを募集し、あるいは、「子ども議会」などの場を設け、議会報告会などで人々に議会との接点を設けることである。もちろん、執行部サイドでも、住民参加の審議会/会議体や、大量住民参加の試みもある。あるいは、抽選制で参画を呼びかける市民討議会方式もある。ただし、あくまで呼びかける対象を抽選するだけであり、それに答えるか否かは住民の自発意思である。
こうした試みは、国が自治体に義務付けるものではないし、国が住民に義務付けるものでもない。義務付けた住民参画は、参画とは名ばかりであり、実態は動員又は徴用でしかない。【つづく】