2018.07.10 コンプライアンス
第8回 お付き合いの基本「冠婚葬祭」
弁護士 金岡宏樹
今回は、皆様の活動において避けては通れない「冠婚葬祭」について取り上げます。冠婚葬祭は地域の支援者や有権者と直に顔を合わせ、祝意や弔意を伝えるお付き合いの基本ともいえる機会です。街中で出会うのとは違ったプライベートな場面だからこそ、気をつけなければいけないことがたくさんあります。
Question
Q1市会議員をしている私の元後援会長が亡くなり、市内の葬儀会場で葬儀が行われることになりました。そこで……、
① 公務のため市内で営まれた通夜に駆けつけることができないので、まずは弔電を葬儀会場に送ろうと思います。その際、気をつけるべきことは何ですか。
② 翌日の告別式に参列する際、香典として10万円を包んで供えましたが、問題はないですか。
③ 告別式の際、慌てていて香典を忘れてしまいました。そこで、「後で持ってくるから」と伝えて、その日の晩に自ら訪問して香典を届けてもよいでしょうか。
④ 後援会において功労があった方のため、後援会から香典を出してもよいでしょうか。
⑤ 香典の代わりに、後日、後援会から遺族へ弔慰金を出すことに問題はないですか。
Q2選挙区域内に住んでいる友人から、「他県にある実家の親族が亡くなったので葬儀のため帰省する」と連絡がありました。昔からの友人であり、故人とも面識があったので、現地の葬儀会場に供花を送ってもよいでしょうか。
Q3 支援者の子息(市外在住)の結婚披露宴が市内のホテルで開かれ、私が招待されました。
① 当日、会場受付で祝儀とともに新郎新婦にペアグラスを贈りましたが、問題はないですか。
② あいにく公務が入ってしまっていたため、急きょ代理として秘書に出席してもらいました。私が招待されていたので、祝儀は私が立て替えて出してもよいですか。
Q4 市内に住む私の後援会会員が結婚することになったので、後援会の懇親会で、後援会から当該会員に対し結婚記念品を贈ることはできますか。また、お祝いとして懇親会費を免除することはできますか。
Q5私の親族が亡くなり、私が喪主として市内の葬儀会場で葬儀を執り行いました。その際に……、
① 読経していただいた僧侶にお布施を渡してもよいですか。
② 香典を持ってきてくださった参列者に、後日、香典返しを渡すことはできますか。
③ 新聞広告に会葬御礼を掲載することはできますか。
④ 会葬に来てくださった方々に、お礼状を送ることはできますか。
Answer
A1① 公職の候補者又は公職の候補者となろうとする者及び現職の公職者(以下「公職者等」といいます)による弔電の送付は、公職選挙法(以下「公選法」ないし「法」といいます)199条の2で禁止される寄附には当たりません。しかし、弔電に付随して線香などを送った場合には、寄附の禁止違反となります。
② 公職者等本人が告別式に自ら出席してその場で香典を供与することはよいのですが、包んだ10万円という金額は、通常一般の社交の程度を超えており、罰則をもって禁止されます。
③ 告別式後の夜に香典を届けることは、仮に事前に告知していても罰則をもって禁止されます。
④ 後援会等の後援団体は、推薦・支持する公職者等の選挙区域内にある者に対し香典を含む寄附を行うことが禁止されていますので、出すことはできません。
⑤ 上記④のとおり、後援団体は、推薦・支持する公職者等の選挙区域内にある者に寄附を行うことが禁止されており、弔慰金もこれに該当するため、本設問の場合も禁止されます。
A2喪主が当該友人であった場合は、寄附の禁止に抵触し違反となります。
A3① 公職者等本人が結婚披露宴に出席してその場で祝儀を出すことができますので、ペアグラスを贈ることもできます。ただし、ペアグラスが高価に過ぎる場合などは、罰則が適用される可能性があります。
② 祝儀を渡しても罰則の適用がないのは、本人が出席した場合のみであり、代理人による場合は認められません。
A4後援団体が結婚記念品を贈ることやお祝いの趣旨で懇親会費を免除することは、「祝儀その他これらに類するもの」を供与することに当たり許されません。
A5① 読経という役務・労働に対するお布施であれば、対価性を有する限り寄附に当たりません。
② 香典返しは、その地域の慣習として成立している場合に、返礼の程度も相当といえる限りにおいては寄附にならず認められます。
③ 新聞広告に会葬御礼を掲載することは、有料の挨拶広告の禁止に反し違反となります。
④ 会葬に対するお礼状を送ることはできます。ただし、時期や態様によっては事前運動の禁止や文書図画の頒布又は掲示の禁止を免れる行為の禁止に抵触する可能性があります。