地方自治と議会の今をつかむ、明日につながる

議員NAVI:議員のためのウェブマガジン

『議員NAVI』とは?

検索

2018.02.26 選挙

選挙制度の選択制――『地方議会・議員に関する研究会報告書』について(その5)――

LINEで送る

東京大学大学院法学政治学研究科/公共政策大学院教授(都市行政学・自治体行政学) 金井利之

はじめに

 この連載では、総務省に設置された地方議会・議員に関する研究会がまとめた『地方議会・議員に関する研究会の報告書』(2017年7月、以下『報告書』という)の検討をしているところである。前回は、都道府県議会議員の選挙制度について検討した。『報告書』が、比例代表制導入という大胆な提言をしていることは、注目に値する。ただし、そのメリットに関する論拠は薄弱であり、また、地域代表性という現行制度からの移行のハードルは高いといわざるを得ない。
 さて、『報告書』は、市区町村議会でも都道府県議会でも、3案を提示して、全国画一制ではなく選択制の可能性について議論している。そこで、今回はこの点を検討して、『報告書』への論評を終えることにしよう。

選択制

 『報告書』によれば、単一の選挙制度案をあらゆる自治体に推奨することは難しいとしている。また、選挙制度は民主主義の根幹であるから、どのような制度が望ましいかは、有権者自身の決定によるべきという考え方も示す。そこで、自治体が自らの発意により実効的な代表選択を可能とする選挙制度を選択できるという、「選挙制度選択制」を検討する余地があると考えるに至ったという。
 その意義は、第1に、自治体は多様なので、より適切な選挙制度が導入できることである。第2に、住民の側に議会に関する議論や意識の変化を促す効果がある、さらには、議員のなり手不足等の課題解消にもつながることである、という。
 もっとも、『報告書』は課題も指摘する。第1に、民主主義の根幹である代表原理や選挙制度が地域ごとに異なることに、十分な理解が得られることが必要という。選挙制度は、事務執行や組織・運営の選択制に比べて、その前提となる民主主義の根幹となる以上、おのずと自由度は狭まるべきものという。第2に、選挙制度の適否を判断する上での枠組みをどう設定するのか、どのような手続で選択するのか、という問題がある。選択制では、基本原則や選択手続の整備が不可欠なわけである。
 こうして、『報告書』では、選挙制度選択制でも、おのずから枠があるべきという。具体的には、選挙制度に関する基本的な原則を法定し、定められた選択肢の中で選択を可能とする。あるいは、選択制を適用する対象団体を限定する(一部の団体は選択制対象から除外する)。また、選択手続としては、議会議決のほかに、住民投票に付すことが考えられるという。

選択制の自己矛盾

 『報告書』がいうとおり、選挙制度選択制とは、通常の政策・制度選択をする主体(=議会議員)のあり方を選択するという、自己矛盾的な営みである。選択に意味があるのは、選択主体がまともであることが前提である。しかし、選挙制度を変更する選択をするということは、現行選挙制度が適切ではないという判断を前提にする。とするならば、選挙制度を変更する選択をする当該議会は、適切な存在ではないということである。したがって、不適切な議会が適切な選択をできるはずもなく、選挙制度の選択も合理的にはできないはずである。つまり、選挙制度の選択は、常に愚かな選択である。こうして考えると、選挙制度改革とは、絶対的な愚行である可能性もある。
 余談ではあるが、国政の選挙制度を国政の議会が決定することも、同じような限界を抱える。選挙制度改革は、従前の不適切な議会が選択するのであるから、不適切な選択にならざるを得ない。例えば、1925年の普通選挙の導入は治安維持法とセットであった。1994年の小選挙区制度の導入は、政治の混乱と政治不信の増大と政党政治の衰退をもたらしただけであった。結局、国政選挙制度の改革は、外国――占領軍とか国連監視団とか――によるしかないのかもしれない。
 都道府県議会の選挙制度選択は、都道府県議会では適切にはできない。しかし、二元代表制の抑制均衡の関係から、首長に判断させるのであれば、首長にとって都合のよい選挙制度になるので、これもできない。そこで、国が判断するしかない。つまり、都道府県議会の選挙制度は国が法定するしかない。これが現行の考え方である。しかし、これは地方分権や国と自治体の垂直的権力分立の観点からすれば、国に都合のよい選挙制度になるに決まっている。したがって、本来は適切なことではない。こうして、堂々巡りになる。
 だから、結局は、住民が直接決定するしかないということになる。しかし、現実に、住民のイニシアチブによって直接立法することは、現行制度ではできない。条例の制定改廃請求は、議会の議決が必要だからである。仮に直接請求制度を変えて、住民直接立法であるイニシアチブを可能にすれば、議会を経由せずに、議会選挙制度を選択することはできる。もっとも、仮に制度的に可能になったとしても、現実に住民がそのような直接請求運動をすることは考えにくい。

この記事の著者

議員 NAVI

今日は何の日?

2025年 425

衆議院選挙で社会党第一党となる(昭和22年)

式辞あいさつに役立つ 出来事カレンダーはログイン後

議員NAVIお申込み

コンデス案内ページ

Q&Aでわかる 公職選挙法との付き合い方 好評発売中!

〔第3次改訂版〕地方選挙実践マニュアル 好評発売中!

自治体議員活動総覧

全国地方自治体リンク47

ページTOPへ戻る