2017.11.27 選挙
担い手不足の中の候補者の「多さ」 ――『地方議会・議員に関する研究会報告書』について(その2)――
東京大学大学院法学政治学研究科/公共政策大学院教授(都市行政学・自治体行政学) 金井利之
はじめに
前回から、総務省に設置された地方議会・議員に関する研究会がまとめた『地方議会・議員に関する研究会報告書』(2017年7月、以下『報告書』という)の検討を開始した。前回は初回ということで、『報告書』が依拠する「実効的な代表選択」の視点について検討を行ったところである。結局のところ、この視点はあまり説得的ではなく、選挙制度の検討を行いたいという意向だけが示されていた。そこで今回は、市区町村議会議員の選挙制度についての議論を考察してみよう。
大規模団体での課題
『報告書』によれば、市区町村議会議員の選挙制度には、いくつかの課題があるという。
第1は、市区町村が多様な実態を持つにもかかわらず、同一の選挙制度を採用していることである。特に、大規模団体の議会と小規模団体の議会では、住民との距離感が異なる実態がある。端的にいえば、議員1人当たりの住民数は、大規模団体では著しく大きいということである。もちろん、この点は、大規模団体の議員定数を増やせばすむだけのことではあるが、議員定数を減らすことを求める圧力の強い現代日本において、こうしたことは不可能である。結果として、大規模団体の議員は住民から遠い存在となっているわけである。
住民から遠いとすれば、大規模団体の議会において、そもそも、住民代表である議員は、一体何を存在根拠にすればよいのかは、不可解になる。『報告書』によれば、大規模団体では専門性の確保や政策・政党等本位の選挙が求められるという。いわば、住民から遠い存在の議員が、何をもって住民との紐帯(ちゅうたい)を確保するのか、ということである。しかし、専門性や政党色があれば、住民から遠くてよいのかは、かなり疑問である。
ともあれ、政策や政党という紐帯で、住民との距離感を埋めようというのが『報告書』のスタンスである。仮に、大規模団体では政策・政党という紐帯が必要だと前提すると、現行選挙制度は個人本位であるため、課題があるということになる。個人本位の選挙制度では、「候補者と有権者の間の個人的なつながり(地縁など)に依存した選挙となりやすく」なるからという。もっとも、紐帯が必要であるという視点からは、「個人的なつながり」があれば、大規模団体でも問題ないのではないか、という気もする。しかし、大規模団体では、「個人的なつながり」で現実にカバーできる住民の範囲は狭く、結局は、住民の大多数は議員と「個人的なつながり」を持てない事態になるから、問題なのだろう。